鋼鉄姑娘
「すまない」
ひと通り片付け終えると、源龍は服を脱いで河の水で身体を洗った。
河の流れが屍を流し、風も吹いて死臭を吹き飛ばし。どうにか死臭はなくなった。
「これが、死ぬということか」
貴志は力なく、河面を見据え、ぽそりとつぶやいた。
「って言うかよう、屍魔ってな、一度目は人間で生き返って、二度目から屍魔になるってんじゃなかったか?」
「あ、そうだ!」
そんなことを香澄が言っていたのを思い出した。ということは、再会の折に遭遇したのも、さっきのも、二度死んで屍魔になった者たちなのだ。
「なんでこの係留所が無人なのか」
源龍は頭を働かせ、貴志も思わず頷く。
戦乱の影響で無人になったのだろうことは、想像に難くないが。そこに屍魔が現れたということは。戦乱で無人になったあと、反魂術によって死人の集落がつくられ。それが何らかの理由で二度目の死を迎えて、屍魔になった。
「そうだね、戦乱でなくても、事故や病気で死ぬ場合もあるし。反魂術も完全じゃなくて、という場合も考えられるね」
「どうあがいても、人間はいつか必ず死ぬってことだな」
「……そうだね」
太古の昔から王侯貴族は不老不死を願って、医学や魔術・呪術など、さまざまな手段を講じてきたが。その願いがかなえられたことはない。むしろ不老不死のためにしたことで、身体を壊し、早死にしてしまった本末転倒な例もある。
不老不死のために、水銀を飲むなどしていたそうだ。
ということを、源龍に話してやれば、
「なんてけったいなことを」
と、眉をしかめてつぶやく。
「反魂術がいつだれが作った魔術なのかわからないけど、北娯の宮中で悪用されているのは確かだ」
(っていうか、なんで僕の小説の世界で?)
世界樹もほんとうにわけのわからないことをするものだと、困惑しきりである。
その一方で、人は必ず死ぬ、という絶対的なことに、言いようのないものも感じていた。
「まあいいや。オレは寝るわ」
打龍鞭を素振りして、屍魔を仕留めて、その屍を片付けて。源龍は疲れをいやしたかった。服を着て、鎧と打龍鞭を船に放り込み、船に乗り、そのまま大の字になって寝た。
(いい性格してるなあ)
なんやかんやで戦乱を生き延びるのは、こういう者かもしれないと、貴志はふとふと思った。
自分は変に繊細過ぎて、それが足を引っ張る。
(本でもあれば)
読んで暇をつぶすのだが、船には本は積まれてなかった。それで、どうするかというと、物思いにふけっていた。
幼いころより書や本に親しみ、気が付けば空想や創作に興味を示し、小説を書くようになった。
が、まさかそのことによって、今に至るなど。夢にも思わなかった。




