鋼鉄姑娘
だから買い出しなど必要とあれば降りているわけなのだが。
マリーをはじめとする女性陣は最寄りの集落で買い出し、そして北娯情勢の聞き出し。源龍は女性陣が発つときには船でまだ寝ていた。
貴志もついてゆくと言ったが。
「源龍と一緒に留守番して」
と、龍玉は言う。
源龍は気持ちが上の空のようである。世界樹に振り回されているからか、と貴志は思ったが。
「敵を求めてるんだよ」
などと、物騒なことをいたずらっぽく言うものだから。貴志は面食らった。
「だから、あんたは源龍を見張ってて」
「……わかりました」
とはいえ、気になることもある。
「でも、女の人だけでは」
「あら、嬉しい事言ってくれるじゃない」
龍玉は笑顔で九つの尾を引っ込めた。
「大丈夫だよ」
腰に軟鞭を巻く羅彩女は自信ありげに笑顔を向けた。マリーのそばに付き添う虎碧も、笑顔で頷いた。
彼女らは腕に覚えのある女侠でもある。
こうして、貴志は女性陣を見送り、源龍とともに留守番をすることになったわけだが。
じっとしていられない源龍は起きるや備え付けの食料である饅頭を食って腹を満たし、鎧をまとい貴志に稽古を突き合わせたが、結局逃げられた、という次第。
「ヴヴヴ……」
大きな羽虫の羽音のような、不快な振動音がし。不機嫌に船に座り込んでいた貴志も咄嗟に跳躍し陸に上がって。源龍は素振りをやめ、周囲を注意深く見まわす。
「来やがった」
屍魔が数体、こちらに向かって歩いてきて。ふたりを認めるや、突然駆け足になって迫ってくる。
「女子供もいるのか」
源龍、貴志ともに絶句。
「おめえは引っ込んでろ!」
突然貴志の胸倉をつかむや、船に放り投げて。それからは、源龍ひとりで屍魔を片付けた。頭を叩き割ったのである。
貴志は見ていられず、目を背けさせられた。
屍魔とはいえ、女や子供の頭が叩き割られるのは、無残としか言いようがない。果たして貴志にはこの屍魔を仕留められたかどうか。
源龍はそれを思って、全部自分で引き受けたのだろうか。
「くせえ……」
屍魔である。すでに死んでいるのだから、死臭もしているが。死臭はどんどん鼻孔に入り込んで鼻が利かぬ者ですらその臭いを感じさせられ、大変不快な思いをさせられるのだ。
「仕方ねえ」
死臭を堪えて、源龍は屍を河に放り込んだ。貴志もそれくらいはと、手伝おうとしたが。
「……うッ!」
死臭やその無残さから、たまらず吐き気をもよおし、河にぶちまけてしまった。
「だから言ったろうが、引っ込んでろと」




