鋼鉄姑娘
篝火が、ぽかんとする門番を揺れる火で照らし夜闇から掬い出す。
「おい、女は!」
「それが……。あッ!」
石狼の拳が門番の顔面にぶつけられて。たまらず鼻柱は折られて、鼻血を噴き出しながらどさっと倒れた。
「ち、この、ぼんくらめ!」
倒れた門番の襟首をつかんで強引に立ち上がらせるや、次に両手で首を握りしめる。
後から駆け付けた関焔や秦算らは、
「頭領!」
と止めようとするも、それより早く、ぼきり、という鈍く不快な音が耳に触れて。門番は口から泡を吹いて、うつろな目になって。放り投げられて。ぴくりとも動かない。
「この汚えものを片付けておけ! オレは寝る!」
ずかずかと大股で歩き、石狼は自室へ戻ってゆく。
「やれやれじゃのう」
秦算はやむなく下の者に言いつけて、簡素でもそれなりに弔ってやれと命じて。自分も戻ってゆき。
関焔もぽかんとしっぱなしながら、建物の中へ帰ってゆき。
北娯維新軍はうやむやのうちに夜の闇に抱かれて眠りについた。
翌日。
この時代、および貴志の小説世界に来て、屍魔と遭遇し、水滸子山をねぐらにする北娯維新軍との遭遇があって。
香澄と他の面々は別れたまま。
「あいつはどこでなにをやってるんだか」
源龍はぽそりとつぶやく。
船はある河に降りて、係留している。源龍は河原に上がって、鎧を着こんで打龍鞭を素振りし。さらに貴志にむりやり稽古に付き合わせた。
源龍は本気で打ちかかってくる。貴志はそれを素早い動きでかわす。そればかりでなく、やり過ごした打龍鞭を掴んだりするなどしてみせたから。
もう源龍は本気も本気で、貴志に打龍鞭を振るった。
「僕を殺す気か!」
稽古に無理矢理突き合わされて、殺されてはかなわない。
「もうやめた!」
距離を開けて、跳躍し船に飛び乗って。そっぽを向いて知らん顔。
「あ、おい、こら、さぼるな」
「知らない!」
源龍は稽古に戻れと言うが、貴志は完全に拒絶して腕を組んで胡坐をかいて、揺れる河面と睨めっこする。
仕方ないので、源龍は少し休んで、それから素振りをする。
(心に乱れがあるな)
そのせいで動きも乱れている。そんなことを考えてから、はっとして、
(いやいや、僕は武術は大嫌いなんだ!)
と、首を横に振った。
空は晴れている。雲が空を泳ぐ。船はぷかぷか浮かぶ。
船は大陸南方の大河、庸子江の支流のそのまた支流の河に降り。使われなくなった無人の係留所があり、そこに停泊している。
まさかリオンの力でずっと空にいるわけにもいかない。




