鋼鉄姑娘
源龍は、べっ、と忌々しそうに唾を吐き。屍に戻った屍魔を忌々しく見据える。
「反魂術で蘇った屍魔がうろついてるなんて、のっぴきならないことになってるじゃないの」
龍玉は九つの尾を揺らしながら周囲を見回す。虎碧も首を回す。まだいるのか、もういないのか。船の方でも篝火が焚かれて、それがこの闇夜の中で龍玉と虎碧の目を補っていた。
「まあまあ、ここは船に戻ろう。皆と会えたことだし」
リオンはそう促し、皆はそれに従い船に乗った。
屍魔がいて、乗りこまれたらいやだからと。リオンの例の力で船は宙に浮かび、羅彩女は不思議そうに、あるいは面白そうに船縁から下界を見下ろす。
と言っても、もう真っ暗で何も見えない。
空に浮かぶ船の中、小屋の中で一同円座になって。再会したのだと、ようやくわかってきた。
「ああ、怖かった」
今更のように、マリーは深いため息をつく。安堵と恐怖が入り混じっているのが、顔色からうかがえた。
ところで、明かりはどうしてるかというと、リオンが指を鳴らせば。松明の火は消えて、代わりになにか部屋に漂う数個の粉つぶが光を放って、部屋を明るくした。
「そんな力もあるのか」
貴志はただただ驚く。世界樹はこの褐色の肌の少年に大きな力を与えたものだと。
「でも死人を生き返らせることはできないよ」
「当たり前だ、そんなことをされてたまるか!」
源龍は八つ当たりのように乱暴なものの言い方で反応し。リオンは苦笑する。
虎碧は母に寄り添い。龍玉はその虎碧の隣。マリーのもう一方の隣に、貴志。それから源龍と羅彩女、リオン。
ひとり足りない。
香澄は何を思って北娯維新軍に残ったのか。
「貴志さん、さぞ驚いたろうねえ」
リオンが悪戯っぽく言い。貴志は苦笑しながら頷く。
「なんで貴志の小説の世界に?」
「さあ、わかんない」
リオンはいたずらっぽく舌を出して、そう言う。羅彩女も苦笑する。
「わかんないって。それも相変わらずだねえ」
「世界樹の真意は誰も読めないよ。ただ行かされるところに行って、やることをやるしかないね」
「なんていうか、こう、他のやつに操られて、こう、なんて言うのか」
「操り人形のよう?」
「そう、それだ。気持ち悪いもんだぜ」
源龍が言葉に詰まったのを貴志が助け舟を出し。それをリオンとマリーは微笑ましく思った。
「そうそう」
何か閃いたように龍玉は、
「あのさ、貴志さ、あんたが書いた小説ってどんな内容なの?」
と、貴志に問う。
問われて貴志は、内容を述べて答えた。




