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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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鋼鉄姑娘

「うんうん。なるほど」

「なるほどって。リオンはこのことをわかってたの?」

「いんや、全然。ほら世界樹も最近は愛想悪いでしょ。前は、何をするのか言ってくれてたけど」

「ああ、そういやあそうだねえ」

 羅彩女は頷きながら、前は確かに何をするか少しでも言ってくれてたのに。最近は何も言わずに、突然どこかに放り込むものだから、困ったものだと告げる。

「まあまあ、ここで立ち話もなんだから。船に行こう。皆いるよ」

「船?」

「うん、世界樹が用意してくれたの。動くねぐらだよ」

「で、皆って?」

 貴志の問いに、リオンは何か意味ありげに笑って、歩く。

「マリーに虎碧、九尾の狐の龍玉」

「もう会えないと思っていたけど、あっさりと再会できるんだね」

 貴志苦笑。源龍は「ふん」と鼻息ひとつでそっけなく。羅彩女は、あの女狐もいるのと憎まれ口をたたき。

 リオンは真っ暗闇の中、松明の明かりを頼りに三人を先導して歩を進め。やがて河のそばまで来て見れば。なるほど船がぷかぷか浮かんでいるのが見えてくる。規模は少し大きめで簡単な造りながら小屋もあり、その中で雑魚寝ながら雨露はしのげそうである。

「ヴヴヴ……」

「やあッ!」

「このおー!」

 あの、屍魔の唸る、不快な羽虫の羽音がしたと思えば。女人の勇ましい掛け声も同時にする。

 はっとして駆けてみれば、屍魔は十体ほどおり。船に迫り、それを虎碧と龍玉が剣を振るって対応していた。

「ありゃりゃ!」

 リオンは思わず大きな声を出してしまって。源龍は闇夜の黒い旋風とばかりに駆けながら打龍鞭を振るい、屍魔の頭を叩き割ってまわった。

 貴志と羅彩女も、すわやと思ったものの。源龍の咄嗟の素早い反応に追いつけず、事態の成り行きを見届けることになってしまった。

 頭を叩き割られた屍魔は、脳みそをぶちまけた無残な姿で倒れこんで。もうぴくりとも動かず。

 虎碧は目をそらし、龍玉は突然のことに驚きつつも、

「やるもんだね」

 と、親指を立てた。彼女の腰からは九つの狐の尾が生えていた。

「あっ」

 貴志は跳躍し、船に飛び乗れば。不安そうにたたずむマリーのそば。

 その震える様から、あの闊達だった世界樹の子どもの面影はなかった。子どもに戻されて、性格も変えられていたのか。

 ともあれ、もう大丈夫ですよと声をかけて、マリーを安心させる。

 この貴志の素早さに、羅彩女は苦笑を禁じ得ない。

(年増を相手に、よくもまあ)

 そう勘繰るのは市井の最下層の生まれのせいかと自分に苦笑し、そうするのは優しい性格からだと思うことにしろと自分に言い聞かせた。

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