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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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鋼鉄姑娘

「香澄です。どうぞよろしくお願いします」

「ふむ、礼儀正しいよい娘さんじゃな」

 軍師で打破麻煩(難を破るの意)のあだ名をもつ秦算は柔和な笑顔を見せた。が、羅彩女は信用していない。

(あんな好々爺でも、下心満々だったりするからねえ。あたしゃ騙されないよッ!)

 などと、内心身構えている。

「して、他の四人のお方は?」

「……あ、名前を聞くのを忘れてました」

「馬鹿野郎!」

 石狼の鋭い一喝が轟き。関焔は縮こまる。

「だからお前は半端者なんだ。何度注意すればわかるんだ、この、大阿呆!」

「す、すいません。……名前は?」

 関焔は縮こまりながら他の三人に名を名乗るよう丁寧に促す。源龍は、なんだこりゃ、と内心軽蔑しながら。

「源龍だ」

 と、そっけなく名乗った。それをわざと無視し、

李貴志イ・フィチです」

「羅彩女よ」

 とそれぞれ名乗った。

「まあまあ、立ちっぱなしもなんだから。座りなさい」

 秦算は好々爺然として四人に言い。その言葉通りに四人は座った。

「李貴志とな、その名の響き、そなた白羅ペクラの生まれか?」

「……はい」

 この時代、朝星半島チョスンはんとうはまだ白羅の時代であったが。滅ぶ十年前であり、あの翼虎伝説の時代から八十年ののちのことであった。無論、武徳王ムドクワン李志煥イ・チファンもすでに亡くなっている。

 その間大陸では、瑞が興り。をも滅ぼし。天下を統一した。が、内乱が起こり、それを機に滅んで、また群雄割拠の時代になって。その群雄のひとつが、北娯であった。

 本当は違うんだけどなあ、と思いつつ。説明するのも面倒なので貴志は余計なことは言わない。ただ、

「私は根無し草として各地を放浪し、世情には疎いです」 

 と、そんなことを言った。半島情勢を聞かれても、こまかなところは答えられないので釘を刺したのだ。

(って言うか、自分の創作作品の人物に会って。睨まれて、用心しなきゃいけないなんて……)

 言葉もない。

 他の北娯維新軍の面々は眼光鋭く四人を品定めするように見据えている。敵意あらば一斉に襲い掛かり屠る腹積もりだ。

 石狼と秦算は椅子から立ち上がり、四人のもとまで来ると、どっかと座り。円座になる。

「おい、関焔」

「はい!」

 頭領の石狼に睨まれながら促されて、関焔は話をする。北娯維新軍に香澄を勧誘したいと。

「それに、反魂がなんたらとか、魔術で死人を生き返らせているみたいなんですよ。胤帝は」 

「なに?」

 ふざけているのか、と石狼は関焔を一層睨んで。睨まれた方は身を縮め、

「本当ですよ」

 と蚊の羽音のようなか細い声を漏らした。

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