鋼鉄姑娘
しばらく歩いて、小高い山を登れば。山頂に砦があった。もう日は暮れていても、篝火が焚かれていて。周囲は明るかった。
ちなみにこの小高い山は、水滸子山という。その名の通り、河(水)の滸の小山である。ちなみにこれも貴志の創作した山であり、実在はしない。
関焔を見かけた門番は素早い動きで門を開け、五人を中に導き入れた。
「なかなかの一大勢力だねえ。北娯に反乱してるの?」
さらりと、そんなことを羅彩女は言い。関焔は目を輝かせて、そうですと応えた。羅彩女を見る目つきは、なにやら色々な感情をふくんでいるようだ。
(この男、けっこう助平ね)
「反乱ではありませぬ。維新です」
羅彩女の内心など知らず、関焔は得意げに語る。
「まあ、私は頭が悪いので詳しくは話せませぬが。あとは頭領に……」
関焔は四人を案内しながら、砦の建物の中に入ってゆく。木造の簡素な造りながらも広いが。やはりこの木造の簡素な造りを見れば、北娯維新軍が私設の軍団であることを感じさせた。
(これも僕の設定と同じだ)
小さな勢力だった北娯維新軍は、少女剣客・鋼鉄姑娘の助力を得て維新を成し遂げ。悪政を働く北娯の皇帝、胤帝を帝位から引きずり降ろし。善良な性格の皇太子である健烈帝を押し頂くのである。
造りの程度はとりあえずの雨つゆをしのげる程度で、地面には藁を編んで作った敷物を敷き。維新軍の面々はこの中で雑魚寝をして生活をしながら稽古をしたり、案を練ったりしている。
で、中に入れば入ったで、一斉に多くの視線が向けられた。
「関焔、また散歩か」
「今度は誰を連れて来たのだ?」
中には十数人の人数がいたが、建物の奥には特に一段高めの木の分厚い板が敷かれさらに長卓と椅子ふたつ。その椅子に座る人物ふたり。関焔と四人をじっと見据える。
向かって左側の男は四十路前後か。顔はいかついが落ち着いた雰囲気を漂わせ。右側は老人で髪も胸まで伸ばす髭も白い。
「へへ、いい助っ人を連れてきましたぜ」
「おい、助っ人になるなんて言ってないぞ」
源龍は関焔に食って掛かる。あからさまに機嫌の悪さを見せて、怖じるそぶりもない。
貴志は肘で源龍の肘を小突き、何も言うなと無言で示し。気が付けば香澄の視線も向けられているので、不本意ながら口をつぐんだ。
(……東牙の石狼と打破麻煩の秦算)
「このお方たち、右側に座るのが頭領で東牙・石狼さまと、軍師の打破麻煩・秦算さまです」
関焔はうやうやしい態度でふたりを紹介し。紹介された香澄は、包拳礼をもってお辞儀をする。




