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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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鋼鉄姑娘

「ふ、ふふ。オレも有名になったのか。努力の甲斐あったのう」

 先にあだ名と名を呼ばれたのは、むしろ嬉しいらしく。まんざらでもなさそうに、笑顔すら見せるものだから。源龍と羅彩女は拍子抜けする。

(この、お調子者の性格も一緒だ。なんて再現度が高いんだ)

 貴志はかえって口元を引き締めて、気も引き締める。

「ひとたびこの腰の大刀の銀光が閃けば、血風が吹く。人呼んで血風銀光の関焔とはオレのこと。どうぞお見知りおきを」

 慇懃に包拳礼をし、頭を下げる。香澄に。

「ねぐらを出て、気まぐれに散歩をしておれば。一戦あり。男が多勢でそこな少女を襲い。わしは義憤に駆られ助太刀をしようと思ったが……。その必要はなさそうで、見物させてもらっておった次第。その腕前には、感服つかまつった!」

 唾も飛ばさんがばかりに大口開けて、関焔は香澄の強さを讃えたが。賞賛される方はと言えば、やはり飄々としている。

 源龍と羅彩女は何が目的でそんな話をするのか気になっていたが、貴志は目で制して関焔に語らせるに任せた。

「あなたさまを、我らが北娯維新軍に是非ともお招きしたい。我らの正義の戦いに、どうかご助力をいただきたい!」

「北娯維新軍!」

 源龍は驚いて、その名を復唱し、

「怪しげな名前だな」

 などと言う。

「怪しいだと?」

「大仰な言葉を使って正義とか抜かす奴らは、信用ならねえ」

 源龍は何の遠慮もなくそう言い放って、関焔を睨む。が、もちろん双方鋭いまなざしで睨み合い、一触即発であった。

 すると、源龍の目前に咄嗟として視線を遮るものがあった。紫の衣が翻って、香澄の細い手が伸ばされる。血気に逸らぬよう、手で制したのだ。

「いいわ」

 なんとも簡単な返事のしように、源龍は呆気に取られた。羅彩女と貴志は様子見を決め込む。

「寄る辺のない根無し草の身なれば。ご厚意に甘えさせてもらうわ」

「おお、それはこちらこそありがたい」

 関焔は香澄の返事に上機嫌になる。

「して、ご尊名は?」

「香澄。あだ名はないわ」

「ありがとうござる。案内をいたすゆえ、それがしに着いてきてくだされ。しかし」

 ぎろりと、関焔は源龍を睨む。

「彼らも一緒にお願い。粗相をしないよう、私から言いつけておくわ」

「それならば」

 あからさまな態度の違いを見せて、関焔は歩を進め。源龍はしぶしぶながら香澄に従い。貴志と羅彩女も続いた。

(大仰な言葉で正義を語るのは、怪しいか)

 北娯維新軍も、貴志の創作なのだが。源龍の言葉を心の中で反芻して、苦笑させられていた。

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