鋼鉄姑娘
はたして、生気なく足を引きずって歩いていたのが、ばたんと倒れて。もう、ぴくりとも動かない。今度こそ、死者に返ったようだ。
「にわかには信じられねえ話だな」
一瞥をくれながら源龍がもらせば、
「信じるも信じないも、あなた次第」
と、香澄は応えた。
「でも希に、二度目の蘇生の方がたちの悪いのがいるわ」
「って言うかさ」
刹那、風を切る音がし。軟鞭が香澄に迫る。しかし簡単にかわされ、後ろへ跳躍して間合いを取り。微笑みを三人に向ける。
「あたしらのこと、忘れたの!?」
受け答えはできるものの、他人のようなそぶりに羅彩女は苛立ちを隠せない。本気ではないものの、軟鞭を放ったのはそのあらわれだったし。香澄なら簡単に避けるだろうと確信があった。
これには、源龍と貴志は別に驚かない。香澄である。
「覚えているわ。源龍、貴志、羅彩女」
「なんだい。もったいぶって、いやあねえ」
そう言いつつも、香澄が自分たちを覚えているからと言って、簡単には安堵できない。
「やることがあるんだろう?」
「そうよ、そのために世界樹は私たちをここに導いたわ」
やっぱりと、源龍は打龍鞭を肩に担いでため息をつく。羅彩女も同じく。
「で、でも、あの、マリーさんに虎碧さん、九尾狐の龍玉さんに、リオンは?」
「別のところで別の用事をしているわ。私はあなたたちと行動を共にするの」
おそらくかなり大仰なことをさせられるんだろうが、まるで小間使いの雑用のようなあっさりした言い方である。
「ここで長話もなんだし」
香澄は七星剣を鞘に納める。
「出てきなさい」
などと、そんなことを言えば、草むらから男がひとり姿を現した。源龍らは咄嗟に身構える。
「気付いておったか」
男は私服ながらいかにも武林(武術界隈)の徒という感じのいかつい身なりで、年は三十を少し過ぎたくらいか。腰に佩く刀も太い。
「あいや、それがしはあやつらのような妖しい者ではない。歴とした生者だ。名は……」
「血風銀光の、関焔?」
「……!」
貴志はぽろりと男の名とあだ名を先に言ってしまって。男、関焔は固まった仕草を見せる。
「いかにも。オレを知っていたのか」
(あ、しまった! かな?)
関焔の鋭いまなざしを受け、貴志は無表情を装いながら苦笑する。
(だって作者だし)
まさか小説の登場人物が出てくるなど。彼は貴志が創作した人物で、実在してはいないのに。
源龍と羅彩女は、臨戦態勢で隙を見せないよう身構える。香澄は飄々として、成り行きを見守っている。




