鋼鉄姑娘
香澄は七星剣を手にしたまま佇立している。
「あなたたちは……」
「はあ?」
源龍は香澄の様子のおかしさに気付く。いやというほど顔を合わせ話もしたし、なによりその七星剣で三人を仕留めているではないか。なのに、忘れたかのような。
(ここで、三人の侠客と出会うんだけど)
その三人が自分たちではないのは確かだったし。三人とも男だった。少女剣客は三人の男にその強さを見込まれて、行動を共にし、勢力を築き上げて。
その強さから鋼鉄姑娘と呼ばれるようになった。
「阿澄(澄ちゃん)、僕らを忘れたのかい?」
貴志がおそるおそる訊ねてみても、香澄は無言で三人を見据えるのみ。
「ヴヴヴ……」
なにか、羽虫の羽音のような音が耳に触れる。しかしそれはあまりにも変な重みがあって音も大きく、羽虫の羽音ばなれしていた。
四人の眼差しが向けられた先では、香澄に仕留められた隊長や兵らが起き上がっているではないか。
「なにこれ、仕留められたんじゃないの?」
羅彩女は咄嗟に軟鞭を構える。
「屍魔よ」
「屍魔!?」
香澄の言葉に三人は言葉を失った。
「ヴヴヴ……」
という不快な変な羽虫の羽音じみた音は、その起き上がった者らが発するものだった。
手をだらんと下げて、足取りもおぼつかなく、まるで深酒をしすぎた酔っ払いのようにも見えるが。その目はあまりにも虚ろで、生気がない。なにより、傷口から血がしたたることおびただしい。
いかに生気がないとはいえ、明らかに死んでいるはずの者が、なぜ。
「死者を蘇らせる魔術にかけられた、哀れな死者たちなのよ、彼らは」
「な、なんだってー!」
貴志は思わず大声をあげてしまった。他ふたりは真一文字に口を閉ざして無言。
(そんな設定は入れてないぞ!)
貴志が書いた鋼鉄姑娘はあくまでも人のみが出る武侠小説であって、妖魔の類の出る伝奇小説ではない。
「いったいこれはどうしたことなんだ、わけがわからないよ」
「反魂術にかけられた死者は、一度人として蘇りはしても、二度目は……」
見るも無残な生気のなさである。
「反魂術……」
聞いたことのない魔術の名であるが、貴志は魔術方面には疎いので仕方ない。ともあれ、香澄の言うことが本当なら、彼女が渡り合っていた兵らは一度死んでいる死者たちだったということか。
「戦乱が続き、人が減って。それを補うために反魂術がもちいられたわ」
「無茶苦茶だなあ」
貴志は右手を頭の上に乗せて、困ったそぶりを見せる。他ふたりは、それでこいつらをどうするんだと香澄に問えば。
「放っておけば、いずれ死者に返るわ」




