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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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鋼鉄姑娘

「落ち着いたら字の読み書きを教えてあげるから、君も読んでみればいいと思うよ」

「そんな時が来るかねえ……」

 羅彩女が代わりのように応える。世界樹にあっちこっち行かされている身である。落ち着いて勉学などできる時が来るのかどうか怪しいものだった。

 源龍は難しい話になりそうで、口をつぐんで無言。ここで下手に口を開いても頭が着いていかないと。

「で、小説の初めはどんな状況なんだい?」

「はい、旅の少女剣客が江北都の郊外で巡回の兵と遭遇して、乱暴されそうになって、抵抗しているんですよ」

「戦と思ったけど、小戦こいくさにもならないちんけな争いなんだね」

「まあ、そうですね……」

「で、これからどうなるの?」

「隊長が少女を仕留めようとするんですが」

「逆にやられる」

「はい……」

 七星剣を振るう香澄には誰もかなわず、ついには彼女を遠巻きに取り囲んで兵たちは地団駄を踏むしかなかった。そこへ、

「小姑娘ひとりに何を手古摺っておるか!」

 隊長らしき武者が槍を担いで兵をかき分け、香澄と対峙するや。問答無用と槍を繰り出す。

 鋭い刺突、串刺しにせんがばかりに顔面に迫る。しかし香澄は無表情に平静と、穂先を見据え。眼前に迫ったところで、わずかに顔をそらして。右耳のそばで穂先が風を切る音を聞く。

(たいした腕じゃないわね)

 陽光が反射し、七星剣が閃けば。穂先は高速回転しながら宙を舞い、地面に突き刺さった。と思ういとまもない、次に気が付けば。香澄は隊長の懐に飛び込み、七星剣は胴当てを貫き、その背から切っ先を覗かせたその瞬間。素早く後に跳躍し、隊長が血を噴き出して倒れて、その次の瞬間に着地し。

 血に濡れた七星剣をぶんとひと振りし、血を払って。周囲に睨みを利かせる。

 まだ二十にならぬあどけなさののこる少女の怜悧な眼差しに、兵らは怖気づき。「わあ」

 と、悲鳴を上げて、算を乱して逃げ出した。

「うう、僕の書いた通りの仕留め方だ」

 その再現率の高さに、貴志は唸る。

 数体の屍とともに香澄は取り残されて。ただ風だけが吹き、足元の草は風に靡いて揺れる。

「ここで……」

 と貴志がこぼしたとき、ふと、場面が変わって。自分たちも草原にいた。

 源龍は黒い鎧に打龍鞭、羅彩女は赤い軽装の鎧に軟鞭を持ち、貴志は平服のままという出で立ちだった。慌てて懐を探れば、筆の天下はあった。

「んん?」

「あれ?」

「ありゃりゃ?」

 自分たちのいる場所や出で立ちに、香澄の眼前にいることに三人は驚き戸惑う。

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