鋼鉄姑娘
……ここはどこか。
それすらもわからないままに、三人は天上から天下を眺めていた。しかし高度は徐々に下がり、細かなところまで見えるようになってくる。
「香澄……」
ひとり、源龍はその名をぽそりとつぶやいた。ほかのふたり、李貴志と羅彩女は、黙って天下を眺めていた。
戦だった。
その戦を眺めて、統一国家の瑞が反乱を機に滅んで、各地の新興国が鎬を削る戦国乱世の時代だ、ということを貴志はかろうじて理解した。
ということは、自分たちはまた過去に連れてこられたということだった。
何をもってそれがわかったか。
戦を見せられていたのが、場面が変わり。眼下に戦旗はためき、それには北娯としたためられていた。そこでわかった。
貴志は記憶と知識の糸を手繰り寄せ、北娯と名乗る国は歴史上ひとつしかなかったことを思い出し。その国は瑞が滅んでから大陸の南方の大河・庸子江の大河口周辺に興ったことも思い出して。
自分たちはその郊外で起こった戦を見せられているのだろう、と理解した。
ただ、どこか戦というには様子がおかしい。さらにそこで驚かされたことがあった。
「これは、僕が書いた小説の世界か!」
などとつい口走り、源龍と羅彩女は何を言っているのかと一瞬ぽかんとしてしまった。
自作小説の鋼鉄姑娘のはじめは、庸子江の大河口の北側の都市で、北娯の都・江北都の郊外での戦いからはじまるのだが。
ある草原で、主人公の少女剣客は、その戦いの真っただ中で剣を、剣身に北斗七星の並びに七つの紫の珠を埋め込んだ七星剣を振るうのであった。
身にまとう紫の衣は、乱れることなく。刃先はおろか指一本触れられることなく、返り血も受けず、香澄とともに舞うようにひらひらと――。
「お前の小説だと!?」
「頭大丈夫?」
源龍と羅彩女はいぶかしげに貴志を見据える。
「って、小説ってなんだ?」
などと源龍は問い、羅彩女と貴志は思わずずっこける。
「ああ、小説っていうのは……」
(そこから話さなきゃいけないのか)
源龍は悲しいかな生い立ちゆえに教養に欠けるところはあったが、まさか小説を知らなかったなど夢にも思わなかった。
貴志は源龍に話をしてみれば、
「頭の中の空想を書いて、どうしようってんだ?」
などと返ってきたから、貴志は苦笑するしかなかった。
「空想を楽しむんだよ。一流のものになれば、良い教えを与えてくれる」
「ふーん。よくわかんねえな」




