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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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回到未来

 付き添いの僧侶はこの騒動に怖じて、庵の外で震えている。他の僧侶も騒ぎを聞きつけ、駆けつけて、ざわざわ騒ぎ出す。

 源龍と羅彩女は無手ながら抵抗し、迫る相手を殴る蹴るし、さらには、

「うわあー」

 庵の外に投げ飛ばし。部下は悲鳴を上げて背中をしたたかに打って、うなった。

「お代官、由緒ある光善寺で乱暴を働かれると、罰が当たりますぞ!」

「これは故なきことではない、光善女王もわかってくださるだろう!」

 諫める僧侶に志明はそう言いかえし、聞き入れない。が、部下らは源龍と羅彩女にこてんぱんにやられて、這う這うの体で、庵の外。気が付けば。弟の胸倉をつかんだまま、源龍と羅彩女に挟まれている。

「あれ?」

 弟を捕まえたまま、志明はきょとんとする。

 白い歯を見せ、得意な笑顔を見せる源龍と羅彩女を交互に見る。

「兄さん、ごめんなさい……」

 貴志は目を閉じて、知らん顔を決め込む。自分は手出しをしないのが、弟としてせめてもの気持ちだったし。貴志も貴志で両者を諫めたのだが、やはり聞き入れるようなことはなかったかと、内心ため息をついた。

 部下は相手のあまりの強さに怖じて、庵に入ろうとしない。

「これは、つまり、オレは……」

「お前さんが危機的状況ということだ」

 元煥に言われるまでもなく、志明は自分の置かれた状況に気付いている。貴志は貴志で、自分は手出しをするまいと思っていたが、気が変わった。

(超がつくほど不本意だけど……)

「あッ!」

 胸倉をつかまれていた貴志は、咄嗟に右手で兄の、胸倉をつかむ手を掴み返し、素早く軽くねじる。

「いたた」

 と言う間に、逆に貴志が志明の腕をねじって捕らえていた。

「すいません兄さん、このふたりは手加減を知らないので……」

「人を獣みたいにお言いでないよ」

 羅彩女は苦笑しながら言いかえす。源龍は無言で志明を睨んでいる。部下たちは庵の外から上司を案じるしかなかった。

 というところで、にわかに視界がぼやけてくる。

「霧が……」

 誰かがぽそっと言う。そう、にわかに視界がぼやけてきたのは、にわかに霧がかかってきたからだった。

 元煥はふっと不敵な笑みを浮かべる。その一方で、優勢な三人の顔がにわかにくもりだす。

「……」

 貴志は腕を離す。解放された志明は距離を取って、何とも言えない顔で弟を見据える。部下たちは上司が解放されて、形勢を逆転できるかも、とは思わなかった。貴志はもちろん、源龍と羅彩女の強さを知り、すっかり尻込みしてしまっていた。

 しかし他のふたりはともかく、貴志の性格を考えれば、ひどいことになるまいと信じているようでもあった。

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