回到未来
「なんだてめえ、やろうってのか!」
源龍が怒鳴り返すと同時に、志明の部下らは抜剣した。
「なんだい光もんなんか見せて、それであたしらがびびるとでも思ってるのかい!」
羅彩女も負けずに睨み返す。が、貴志は無言で縮んでしまっている。
一触即発の緊張が周囲に走った。何かの拍子に、庵は修羅場となり、血の雨が降りそうだった。
「まあまあ」
そう言って割って入ったのは、元煥だった。
「お代官さまに来ていただいたのはほかでもない、証人になってほしくてな」
「な、ご法主まで何を言われるのか」
「彼らは幻夢の旅人。剣持て追うこと能わず」
志明は元煥までがおかしなことを言い出す。
「しかし、王さまにまでご迷惑をおかけして。最低でも、一言お詫びをするのが筋でしょう」
「まあ、そうと言えば、そうであるな」
はぐらかすようなものの言いようの元煥に対し、志明は戸惑いを隠せなかった。が、気を取り直す。
「ともあれ、お前たちを、逮捕する!」
「なんだと!」
源龍は拳を握りしめ、今にも志明に殴りかかりそうだった。羅彩女も抵抗の姿勢を示す。
「ははは。これは面白いことになってきたわい」
(本当にあの真面目な李志煥さんの生まれ変わりなのか?)
貴志は縮みながらも、元煥の様子に兄同様戸惑う。
「未来に生まれ変わって、子孫の様子を見るのは、面白いのう」
突如元煥は、そんな、意味不明なことを言い出す。しかし一同は聞こえないふりをする。発言に驚いたことは驚いたが、いちいち構っていられない。
部下たちは庵に入り込み、得物を構えて三人を取り囲む。
「源龍、彩女さん、ここは兄さんに従いましょう。僕らは武器もなく、多勢に無勢ですし。公主の理解があるなら、父に王さまもお許しくださるでしょう」
貴志の言うことには一理あった。が、一理あるかどうかが判断基準ではない源龍と羅彩女は、近くに寄る志明の部下の手をはたいたり、胸を押し返したりと、あからさまな抵抗を見せた。
「多少の怪我をさせても構わん、力尽くでひっ捕らえろ!」
言いながら志明は貴志にずんずんと迫る。武術の才能があるのは弟だが、抵抗をされ弾き返されるのを承知の上で兄は弟に迫った。つまり、それだけ怒り心頭であるということだった。
それが理解できて、貴志は抵抗を示さず。おとなしく胸ぐらをつかまれるに任せた。
「この、大馬鹿者!」
兄の叱責が顔面に飛ばされる。
「お前何おとなしくしてるんだよ!」
源龍の怒号も響く。
元煥は、何を思ってか笑顔でうんうん頷くばかり。




