回到未来
本棚の書物の中から適当に一冊取り、題名を口ずさんだ。題名からして、考察を記したもののようだ。源龍は題名を聞いただけで、なにか頭が痛そうになるのだった。
「なあ、そういやあ、仏は蓮華が好きみてえだが。なんで蓮華なんだ?」
「……。蓮華は華と身を同時につけるから、それを使って、因果、原因と結果はともにあるとか、そんな例え話をして。そこから象徴的な華になったんだ」
書物を開き字を目で追っているので、反応は遅かったが。知る限りの話をした。が、源龍は、いまいちわからない。
それ以上に、身を縮めた阿修羅をかくまい、風に乗ってまんまと逃げたのを思い出して、そのことを言ってみれば。
「仏の教えに復讐や報復はないからね。阿修羅といえども、哀れに思ってかくまったんじゃないかな?」
「納得できねえな」
それにあの蓮華は、貴志が天下で描き出したものだ。
「僕もあの時は意識がなかったからね。自分でも全然わからないんだ」
言いながら、目で文を追う。源龍よりも書物に専念したいのが本音だった。
(なんだよ、つれねえやつだな)
「なあ、その本は何が書いてるんだ? 読んで聞かせてくれよ」
「はあー?」
貴志はこのことには、本当に驚いた。源龍が書物に興味を示すなど。
「仕方がないなあ」
(って言うか、よほど暇なんだな)
貴志はしぶしぶながら、源龍のそばに座り、しぶしぶながら、読んで聞かせた。
源龍はうんうんと頷きながら、静かに聞いていた。
羅彩女は長椅子に横たわって、のんびり寝息を立てて寝入っていた。
そんなこんなで夕暮れを迎え、僧侶が精進ながら夕食を運んできて。食べ終えた羅彩女はそのまま寝入った。不思議なことに、程よい眠気に心が覆われて、快眠に身を委ねることができていた。
貴志は源龍に乞われて書物の読み聞かせをさせられて。疲れは否めなかった。源龍も、難しい話を聞いたせいか眠気を催し。
結果、三人そろって眠り。そのまま朝を迎えた。
朝、鳥のさえずりがまどろみの中で聞こえてきたころ。
「起きろ!」
という、怒声。三人は咄嗟に目を見開いて起きてみれば、貴志の兄、李志明が数名の部下を連れて庵に来ていた。
その顔は、驚きや不可思議さに怒りで溢れていた。
「光善寺の使いから事の次第を聞き、急ぎ来てみれば。のんきに寝おってからに!」
「に、兄さん」
「兄さんではない!」
ものすごい剣幕で兄は末弟に怒鳴った。
「公主は許しても、オレは許しておらぬぞ。どこぞへと消え、李家の面目を潰した罪は万死に値する!」




