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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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回到未来

「前世って、あの、李志煥さん?」

 と、羅彩女は問う。

「そんな名前じゃったかな、うろ覚えであるが。白羅の漁村の小役人だったのは覚えとる。漢星の騒乱の折、鬼が現れそれを勇士と翼虎が追い払ったと聞き及んでから、内から湧き起るものがあった」

「オレはどうしていた?」

「お前さんも、よく戦ったな。硬鞭を振り回し、阿修羅に立ち向かい」

「なるほど、よく思い出せたもんだな」

「船には財宝が積まれておった。戦後の復興のために、役に立ったわい」

「でも、こんな成り行きになるなんて」

 貴志は不思議そうにするしかなかった。一体世界樹は自分たちに何をさせたいのだろうか。

「そうさな。七星剣の娘や、九尾の狐の女に、碧い目の母娘おやこと再び巡り会い、使命と試練の道をゆくのだろうて」

「また、どこかにゆくのですか」

「そうじゃな、どこかにゆくのであろうて」

「落ち着けないねえ」

「ふふ」

 羅彩女が思わずこぼすのを聞き、元煥は不敵な笑みを見せた。

「平穏ならば平穏で、じっとしておれぬのではないか?」

 そんなことを、いたずらっぽく言った。

「まあとりあえず、お代官さまがここに来るまでには一日かかる。それまでここで骨休めをするがよい」

 そう言うと、元煥は立ち上がって。他の三人も続いて立ち上がろうとするが。

「よいよい、ゆっくり休んでおれ」

 と、右手を差し出して制し。その言葉に甘えて、三人はとりあえずのおじぎをして。元煥を見送った。

 それからしばらく、寝転がっていたりしたが。

「あー、暇だ」

 ぽろっとこぼれる言葉。しばらくして、僧侶が袋包みを持ってきた。法主からのお心遣いであるという。それは、茶や麦団子であった。この寺では畑で麦や野菜をこさえて、お布施などに頼り切らず、なるだけ自給自足の暮らしを心掛けているという。

 暇をつぶすには、飲み食いが一番と、源龍と羅彩女は舌鼓を打ったが。貴志は、僕は後でいい、と言って。ひとり筆の天下を手にしてもてあそんでいた。

 しばらくして。自分の分を飲み食いし終えて寝転がっていた源龍と羅彩女だったが、しばらくして、また、

「あー、暇だ」

 と言い出した。

「元煥法主の言った通りだね」

「ううむ、暇ってやつがこんなにもきついとは思わなかったぜ」

 貴志のいたずらっぽい突っ込みに、源龍は唸るように言った。武具、打龍鞭があれば、素振りなどして暇をつぶすのだが。それも出来ぬ。

 羅彩女は気晴らしに庵から出て、外の景色を眺めていた。

「今の平穏は、世界樹からのご褒美かもしれないよ。ゆっくり休めってね」


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