回到未来
暗闇の中、それでも恐怖はなくむしろ安らぎがあって、魂が肉体から解放されたかのように心地よく漂う。
それは後で思い返せば、随分と長かったとも思えるし、一瞬であったとも思えた。不思議な時間感覚。
一同が、というには人数は少なくなっており。目が覚めて瞼を開ければ、源龍と貴志、羅彩女の三人だけしかおらず。しかも武具は一切なく、私服姿だった。
貴志はふところの筆の天下を探った。これはあった。
周囲を見渡せば、なにか石窟の中にいるようだった。
半円の出入り口から光が指して、うっすらと中が見えて。自分たちは石窟の中の仏像と一緒にいるのが分かった。
石窟は球状に彫り上げられており。岩山を切り拓いて造られたとおぼしき石窟の中に、これまた岩から削り出したと思しき仏像。
仏像は台座の上、胡坐をかき、静かに瞑想している。右手を右ひざの上に、左手は組んだ足の上に置いて。悟りを開いた余裕から、くつろいでいるようにも見えた。さらに、壁には、仏像の後ろに並んで立つ菩薩たちが彫り上げられていた。
「ここは」
貴志は言葉を失った。源龍と羅彩女も、周囲をきょろきょろして見渡したあと、光を求めて、外に出てみた。
「何者だ!」
一喝が耳に飛び込む。そのあと、貴志の顔をまじまじと見やって。
「あ、あなたは、もしや李貴志さまでございますか!?」
と、震える声で言う。
貴志も、その僧侶と顔見知りであった。
「ああ、暁星に帰れたんだ」
つい、ぽろっとこぼれた言葉。僧侶もそれが聞こえて、不思議そうにする。
「ああ、僕らはもしかして、行方不明になって騒ぎになっていた?」
「はい、それはもう、宮中を巻き込んだ大騒ぎでございますよ。雄王も宰相さま、あなたのお父君も大変憂いておられましたし。辰の公主さまも、一時は大変お怒りでございました」
「ああ、やっぱり」
「ただ、公主さまは後にお考えを改められまして、何かの事情があるのだろうからと、不問にされ。お付きの方々とともに辰にお帰りになられました。そう私は聞いております」
「……そうか、うん、まあ、なんと言うか」
言葉に詰まる貴志を横目に、僧侶は源龍と羅彩女に不審そうなまなざしを向ける。都の漢星で化け物や鬼が現れて、勇士が戦ったことはもちろん知っているが、その勇士たちなのであろうか。
「ともあれ、ここで長話もなんですし。なにより、ここは女人禁制でございますれば」
「わかっているよ、すぐに出ていくよ」
羅彩女はつかつかと歩き出した。
源龍も、ここが寺院なのがわかって、抹香臭いのは興味ねえと羅彩女とともに出てゆこうとする。




