回到未来
虎碧も視線を母に移す。
「お母さん……」
どうして私を置き去りにして、消えたの? 子どもの姿になっていたの? と聞きたいことはたくさんあった。
(そういえば、お風呂はひとりで入りたがっていたな)
本当は女だったことを隠していたかったのかと、合点する。幼い子供は、見た目から装い次第では男にも女にもなれる。
鏡はいつの間にか、ただの鏡に戻っていた。
「ごめんなさい、碧児。まだ心の整理がついていないから、話は出来ないわ」
母は優しさと申し訳なさとをふくませた眼差しで娘を見つめた。
「まさか、お母さんは何かの罰を受けて、子どもに?」
「そう、そういうところよ。声の種で声色を変えて、男の子として生きていかねばならなかったの。……でも、皆との冒険は、不思議と楽しかったわ」
「本当に同一人物か?」
源龍はきょとんとする。我が道をゆくような性格で、けっこう軽いところもあった世界樹の子どもが、実はおしとやかな大人の女性だったなど。どうして想像しえよう。
「あなたたちにも、ずいぶんと生意気な態度を取ってしまいましたね。でもそれは、親しみを感じたからこそ。さっきも言った通り、楽しかったわ」
「さて」
無口だった香澄がおもむろに口を開いて。源龍と貴志、羅彩女はにわかに緊張をおぼえた。
「ぷはッ! ……あ、ごめんごめん」
香澄に緊張する三人の様子がおかしく、笑いをこらえられなかった龍玉は、苦笑しながら詫びた。
マリーと虎碧も顔を見合わせて、くすりと微笑んだ。
「そろそろ行かなきゃ」
「……」
香澄の、そろそろ……、という言葉に、三人は無言。
思えば、船で強烈な眠気に襲われて、そのまま寝入って。目が覚めたら、ここにいて。鏡を見せられて、今に至る。
一体全体、世界樹は何をさせたいのだろう。
(何かをさせる、というより。適当に賽を投げて、後は成り行き次第って感じがする)
貴志はふとふと思った。
「ふう」
しかし、ここはなんだかんだで、居心地が良い。羅彩女はくつろぎの軽いため息をよくついたものだった。
となれば、その心地良さが、眠気を催してきて……。
「皆、頑張って来たから、世界樹からのせめてものご褒美だって。しばらく、ここでのんびり寝てたらいいよ」
リオンは微笑んで言う。
源龍も貴志も、羅彩女も、饅頭と茶で心身を癒せて。内から誘われるままに、横になって、寝入ってしまった。
(次はどこで目覚めるのやら)
それは世界樹のみ知る。今はただ、安らかな眠りの中に身も心もゆだねるだけだった。




