回到未来
ともあれ、大きな鏡がある。
世界樹に立てかけられて、そこに、下界の様相が映し出されている。
「名君だの名臣だのが頑張っても、後の連中が遺産を食いつぶして、おじゃんか」
などと源龍は言い、貴志は、
(源龍もなんだかんだで学んでいるっぽいな)
と、内心感心する。
他の子どもたちが、どこから持ってきたのか饅頭や茶を差し入れ。おかげでここでひもじい思いをすることはなかった。
「ずっとここにいてもいいねえ」
などと羅彩女は言う。しかし、
「ここはここで辛いよ」
リオンすかさずの突っ込むと。
「何もなさ過ぎて、退屈で死んでしまいそうな思いに駆られるよ。あんたたちみたいな連中は」
続いて、九つの尾を座布団にしてくつろぐ九尾の狐の龍玉がそう言った。
「……」
ふと、源龍はなにかぴんと来るものがあったようで、
「虎炎石と刑天の野郎はどうしている?」
と尋ねれば。リオンはある方向を指差し、その先を見れば。めそめそめそめそと泣きくれる子供ふたりがいる。
空は晴れ青空が広がり、草原も陽光を受け緑も眩しく。心も軽やかになりそうなこの風景の中、虎炎石と刑天だった子供は、周囲になだめられながら、めそめそめそめそと泣いていた(第8部、第20部参照)。
「……」
源龍は言葉もなく、口をつぐんだ。ともすれば、自分もあんな風にされてしまうかもしれないのだ。
貴志と羅彩女も眉をひそめる。
「子どもに戻されて、ずっと泣かされ続けるなんて。これも地獄の責め苦だね……」
「散々注意したのに、彼らは力を私利私欲のために利用した。だから世界樹は怒って罰を与えた」
「おお怖……。……って言うか、他に気になることもあるんだけどさ」
羅彩女はマリーと虎碧の母と娘に視線を移した。
「あの狼野郎は、どうした?」
口を閉ざしていたはずの源龍が先に口を開いた。
「さあ、それはわからないな。彼は僕らの管轄外だから」
「管轄外ってなんだよ」
「言葉通りのことさ。でも人狼もなんだかんだで力がある存在みたいだから、どこかでまた遭遇するかもね」
「まったく、わけわかんねーな」
「いや他にあるでしょ」
「ん?」
羅彩女は母と娘を見据えている。源龍もそれに気付き、視線を母と娘に移した。
貴志はと言えば、マリーを見る目が、すこしおかしい。平静を装っているが、変に顔が赤らんだりしている。
(まあ)
ずっと黙ったままの香澄は、貴志の様子を見て微笑みを浮かべた。
(なるほど、おしとやか熟女が好みなの、このおぼっちゃまは……)
龍玉も貴志の様子に気付き、内心ほくそ笑む。




