回到未来
香澄も笑顔でそれを受けて、顔を抱き寄せる。
気が付けば、子どもたちがその周囲に集まり、翼虎にその身を寄せる。
阿修羅どもとの戦いで緊張が張り巡らされていたのが、一気に解かれて、落ち着いた雰囲気に変わってゆく。
「はあ」
源龍は緊張が解けたことで力が抜けたか、その場に座り込んだ。
「とりあえずは助かったということか」
「そうみたいだね」
その隣で羅彩女も同じように座り込んだ。
「後は任せたぜ」
源龍は恥も外聞も気にせず、座り込んだ後に大の字に倒れこんで、そのままいびきをかいて寝入ってしまった。羅彩女もあくびを堪えきれず、大口を開けてしまい。
「あたしも寝るよ、後は頼んだ!」
源龍の横でそのまま倒れこんで寝息を立てて寝入ってしまった。
「まったくいい気なもんだよ」
龍玉は苦笑しつつ、金髪碧眼の女性に視線を移した。
虎碧といえば、わなわなと震えていた。
年に合わぬ冷静さを持つ彼女が、金髪碧眼の女性を碧い目に移した途端に、様子がおかしい。
金髪碧眼の女性も、虎碧を見つめていた。
あなたは? 貴志は問おうとした時だった。
「お母さん!」
虎碧は金髪碧眼の女性のもとまで駆けた。
「お母さん!?」
李貴志と李志煥は驚きを禁じ得ず、思わす固まり。その間に、ふたりは抱擁を交わした。
龍玉もさぞ驚いているだろうと思われたが、なぜか納得の表情でうんうん頷いている。
「娘の面倒を見てくださり、ありがとうございます」
金髪碧眼の女性が龍玉にそう、礼を言う。どういうことだと思えば、その腰から、ふっくらと膨らんだ白い尾が九つ、いつの間にか生えていた。
「九つの尾……」
「そうだよ、あたしは九尾の狐だよ!」
いたずらっぽく、龍玉は舌を出して答えた。
「九尾狐!」
たまげて貴志は腰を抜かした。九尾の狐は暁星では九尾狐と呼ばれる。女に化け男をたぶらかし、あるいは食らう、という物騒な伝説がある。古代の王をそそのかした傾城の美女などは九尾の狐が化けたものであるという。
龍玉のあられもない画皮の仕留め方を思えば、なるほどとも思えた。
志煥も同じように驚いて、腰を抜かしていた。
戦い済んで、やっと落ち着いたと思えば。謎の女性に、龍玉が九尾の狐だったなど。どういうことであろう。
「う、なんだか猛烈な眠気が……」
貴志はにわかに眠気を覚えた。戦い済んだせいなのか。しかし、まだ落ち着いてはいけないのでは、そして自分まで寝入ってしまってはいけないと、気を張るが、その睡魔猛烈にして抗いがたい。
「貴志殿、ここは私にお任せあれ」
志煥も色々あって気疲れはあるが、気を失っていたことが休養になったか、それを言うだけの余裕はあった。




