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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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回報戦闘

 大鮫ほどの大きさではないがそれなりに大きな鮫が集まったと思えば。あの大鮫は、鮫どもに一斉に襲われているではないか。羽毛の羽柄が両目に突き刺さり、そこから出血し、その血に誘われて他の鮫どもが集まったようだった。

 無残なことに阿修羅に操られた大鮫は同じ鮫に襲われて、滅茶苦茶に暴れ回ってはいたが、とめどもない責め苦に耐えられず。

 その無慈悲な牙の餌食になっていって。あっという間に肉片を海に浮かべ、さらに他の小魚も群れ集まってそれを食らっていった。

 これが自然の摂理で、厳しさと言えばそれまでだが。他を餌食にしてきた者が、最期は他の餌食になるとは。

(人間も同じようなものだ)

 貴志はそんなことをふと考えた。

 龍玉と虎碧も体勢を立て直すために船まで降りて来て、餌食になる大鮫の無残な最期に息を呑んだ。

 阿修羅は空で固まって、大鮫の最期を唖然と見届けていた。

「おのれ小癪な人間どもめ」

 形勢は有利になった、と思ったのも一瞬だった。源龍が咄嗟に機転を利かせて、不利な状況を一気にひっくり返してしまった。

 鯱の鬼はもう必要なさそうで、羅彩女は、

「もういいよ、ありがとうね!」

 と礼を言って引っ込めた。その途端に、よろけて尻もちをついてしまった。気を張りっぱなしだったが、それを解いて一気に気が抜けてしまった。

「大丈夫かい?」

 リオンがすぐに駆け付け声をかける。大丈夫だよと言いつつ、源龍を見据えて、

「やっちまいな!」

 と天を指差す。

 翼虎は空をぐるぐると回っている。時々咆哮も轟かせる。しかしまだ自我はないようだった。

 阿修羅は眼下の船と、頭上の翼虎を交互に見て、どちらを襲うべきか迷いが生じていた。

「行くぞ!」

 源龍は跳躍し、羽毛を足掛かりに上へ上へとのぼってゆき。貴志もそれに並んでいた。龍玉と虎碧も、うんと頷き合って、阿修羅目指して羽毛を足掛かりにして跳躍してゆく。

「く、このままではやられる」

 人狼はどこへ行ったのか、姿を見せず、阿修羅は孤立無援だった。これで四人がかりで攻められては、さすがに勝ち目はない。

 そんな阿修羅の気など知らぬと、風が吹く。

 海は風が吹くものだ。この戦いのさなかも、風は吹いていた。しかし支障をきたすほどではなかった。その風が、にわかに強くなり。羽毛も流されてゆく。

「はっ……!」

 ふと、目に入ったのは、蓮華だった。

 この現世に出るまでに見た蓮華が、貴志が描き出した蓮華が風に舞っていた。

 迫りくる源龍と貴志、龍玉に虎碧。

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