回報戦闘
大鮫は大口を開けてその牙でかぶりつこうとするばかりではない、大きな尾びれを大槌のように振るって鯱にぶつけようとし。それを跳躍してかわしざまに、宙から体当たりを食らわせた。
「負けるんじゃないよ、やっちまいな!」
船縁越しに羅彩女は木剣を振るいながら鯱に声援を送るが、彼女もただ見ていればいいというわけではない。鯱の鬼を出し、さらに戦わせるために気を張り詰めて、鯱の鬼と気持ちを一体化させなければならなかった。
少しでもひるむ心あれば、鯱もまた同じようにひるみ、大鮫に圧されてしまう。だから、踏ん張るために自らも声を張り上げた。自分に負けるなと言い聞かせるためでもあった。
またもう一隻の船の方では、一体化による巨体化をなした画皮の中身と、貴志と龍玉、虎碧が渡り合う。
画皮も身軽にも宙を漂う金色の羽毛を足掛かりに跳躍し、
「へへへー!」
などとへらへら笑いながら、拳や蹴りを繰り出す。その勢い巨木のごとくで、よけはするもののその都度風の破片が頬をなでる。
もしこれをもろに受ければ骨肉がこなごなに砕かれるは必定。それも素早くすんでのところでかわす有様だから、三人は冷や冷やものだった。
「なんだお前らひとり相手に三人がかりかよー! 人間てな卑怯なもんだなー。まあわかってたけどな!」
「人外の化け物相手に卑怯もくそもないよ!」
龍玉は果敢に挑み、鋭い刺突を繰り出し。それとうまく連携して虎碧も他方から鋭い斬撃を繰り出す。が、すんででかわされ、そのかわす先に貴志が槍を突き出し、あるいは横に薙いで長柄をぶつけようとする。
が、この三人連携の攻めを、ぐにゃぐにゃした動きで、おかしな曲げ方でよけ、離れて間合いを開けられてしまう。
(ふたりはかなりの手練れだ!)
貴志は龍玉と虎碧の戦いぶりを初めて目にしたが、ふたりはまさに戦いの玄人として戦い慣れているようで。その技もなかなかの冴えを見せた。
(でも画皮もやるもんだ)
悔しいがそれも認めざるを得なかった。
(だけどここで香澄ちゃんがいてくれれば、なんとかなりそうだけど。どうしちゃったんだ!)
彼女は世界樹の子どもを抱きかかえて、船室の中に籠ってしまった。リオンも何を思ったのか、戦いに目もくれず同じく船室に引き篭もってしまったではないか。
志煥は咄嗟に貴志が抱えて船室に導き入れたが、まだ目を覚ましていないようだ。
(それと、翼虎はどこに行ったんだろう)
伝説によれば巍の軍勢を追い払ったそうだが、もうそうしているのだろうか。




