回報戦闘
耳をつんざく金属音がする。刀で打龍鞭を跳ね返し、後ろに向けて飛び離れてゆき。羅彩女も素早く駆けて源龍の背後に回った。
「あ、阿修羅だ!」
ただでさえ多くの人々、子どもたちは恐慌をきたしているというのに。阿修羅の出現はその恐慌の火に油を注いだ。
「船の中に隠れて、早く!」
リオンは叫んで、子どもたちを誘導する。貴志もそれを手伝い、臨戦態勢で人々を船室の中に導き入れる。龍玉と虎碧も咄嗟に気を利かせてもう一隻の人狼の船に飛び移って同じように人々を船室内に誘導する。
しかし、全て入り切れず、子どもを一番に優先し二番目に女性、男は出入り口付近にとどまる。
志煥は貴志が担いで船室内に運んで、すぐに出て来た。リオンはそれと入れ替わるように船室に飛び込んだ。
まったくもって目まぐるしく事態は変転し、危険も迫る。
阿修羅には翼もないのに飛行能力があり、船の上を探るように周回する。
「翼虎はどうした!」
源龍は阿修羅に怒鳴って訊ねるが、
「知らぬ!」
という応えが返ってくる。
「お前たち、どこかに隠したんだろう!」
「それこそ知らねえよ!」
「黙れ、このオレを散々愚弄しおって、目にもの見せてくれる!」
阿修羅は上の腕で刀を掲げ、刀身が陽光に反射する。中の腕と下の腕は何やら指を組んで、三面の口はぶつぶつ念を唱えているようだ。
海がざわつき出す、白波が立つ、波と波がぶつかり弾ける波音も大きくなる。
「なんか来る!」
羅彩女は木剣をかざし、
「出ておいで!」
咄嗟に鬼を出す。その鬼は白と黒の、鯱の鬼だった。とそれが出たと思われた時、海面から飛び出すのは、鋭い牙を見せつけるように大口を開けた大鮫だった。
鯱の鬼と大鮫は空中でぶつかり合い、鰭をもぶつけ合いながら、波音を立ててともに海に落ちた。
「なんだこれは!」
人々はもちろん、源龍と貴志すらも驚きを禁じ得なかった。阿修羅は畜生を操ることが出来るが、まさか海の大鮫すらも操れるのか。そして、羅彩女が危機を察して咄嗟に鯱の鬼を出したことも驚かされた。
「鮫はあたしに任せて、あんたらあの六本腕をお願い!」
(それはいいけど、香澄ちゃんと世界樹の子どもはどうしたんだろう)
貴志はそれも気がかりだった。世界樹の子どもは声色が女の子になったと思えば、香澄は珍しく慌てて船に戻り、船室に籠ったままだ。
その船室の中では、香澄は、
「怖くはないわ。一緒に隠れていましょう」
と言い、子どもたちは頷いて。一緒に隠れようと応えた。




