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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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回報戦闘

「!!」

 阿修羅は素早く駆け出し、皆があっと思った時には、世界樹の子どもを中の両手で捕らえて。上の両手の刀の切っ先を突きつけ。

 下の両手を組んで、

「動くな!」

 三面の口でそう叫んだ。

 世界樹の子どもは最初じたばたしていたが、切っ先を突きつけられてさすがに動きを止めた。

「てめえ!」

 迂闊にも世界樹の子どもを人質に取られて、源龍らは歯噛みし、動けない。

 香澄もいながら、世界樹の子どもは捕まってしまった。

「ああ……」

 香澄はか細い声を漏らす。自らの迂闊さに忸怩たる思いだった。

 咆哮が轟く。翼虎は飛び去ったようだが、まだ近くにいるのだろうか。

「いかん、こんなことをしている場合ではない!」

 阿修羅は世界樹の子どもを放り投げて、咆哮轟いた方へと跳躍し、そのまま飛び立った。飛行能力があるようだ。

「わあー!」

 世界樹の子どもはたまらず叫んで、素早く香澄は跳躍して、その腕でしっかと抱き止め。着地。ちなみに、瞳にはもう何も映っていなかった。

 その際、世界樹の子どもの口から何かがころりと落ちた。

「ありがとう、香澄」

 その声色に、周囲は驚く。女の子の声に変っていたのだった。

「あ、声の種が!」

 女の子の声になった世界樹の子どもは、自分の声色が変わったことに驚いたようだった。

 だが事態はそれどころではない。

「阿修羅さま、ここはお任せを!」

 人狼がひとり、周囲ににらみを利かせる。

 この、目まぐるしく変転する事態に目が回りそうだったが。命が掛かっているとなれば、そうも言っていられない。

 とは言え。

「あなたにかまっている暇はないの!」

 なんと香澄は世界樹の子どもを抱きかかえたまま駆け出す。人狼はそうはいくかと追おうとするが。源龍が立ちはだかる。

「てめえの相手はオレだ!」

 打龍鞭を振るい、人狼に打ちかかる。数はこちらが勝っている。誰かひとりが人狼の相手をすればそれで事足りるのだ。

「阿修羅は翼虎をやるつもりだ。お前らそれを頼むぞ!」

 金粉がふわふわと降る中、打龍鞭は唸りを上げて。金粉は風に流され、宙を舞う。

「……頼むぞ、って言いたいけど。ここはどこなんだ? どうやって出るんだ!?」

 貴志の当然の疑問。

「鳳凰の金の羽毛が漂っているから、それを足掛かりにするんですよ」

 と、虎碧は丁寧に説明する。が、とっさにわかるものではない。それを耳にした源龍は、はっとして。

「そうか、ここに馬鹿正直にとどまることもねえんだな」

 などと言い。

「おい、ひとまずおあずけだ!」

 そう言うや、離脱し。香澄らに続こうとする。

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