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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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悪趣巡遊

「ふん、オレはお前らなどに用はない!」

「そこで死ぬまでじっとしていろ、馬鹿人間め!」

 人狼もお返しとばかりに舌を出し侮辱し返す。

「じっと?」

 しかし確かに言われてみれば、噴水に囲まれているうちは大丈夫だが。獣をどうにかせねばここから動くことはできない。逆の見方をすれば泥水の噴水の檻の中に閉じ込められたとも言える。

「むう……」

 源龍も言われてみればで気が付いて、言葉もなく歯噛みする。

「しかしお前たちは、なぜ自分がここにいるのかわかってないようだな」

 阿修羅は三面の様を嘲笑に変える。今までの事が見えているようだ。

「人の心を覗くんじゃねえ、気持ちが悪い!」

「阿修羅さまは、何かお分かりですか?」

 何を思ったのか、貴志は跪いて訊ねる。源龍は驚いて、なにやってんだと怒鳴るが。知らぬ顔をされて、顔を真っ赤にする。

「てめえ」

「ふむ、お前は話が分かるようだな。なんならこの人狼のように飼ってやってもよいぞ」

「はあ?」

 阿修羅も何を思ったのか、跪く貴志を見て得意な気持ちになったようだ。

(阿修羅の野郎、なんて野郎だ)

 源龍は貴志の意図を察した。まさかと思いつつも、下手に出れば、阿修羅の態度が軟化した。人の心を読めるなら、下心があるのも読めるだろうに。それでも跪かれるのはよほど嬉しいのかどうか。

「お前、オレの心を読もうとしてるな!」

 三面が回り交互に源龍を睨み付ける。下心があっても跪く貴志に態度を軟化させ、変わらぬふてぶてしさの源龍には素直に怒りを感じる。

(……)

 貴志は何も考えず、視線を落としただ脳裏に虚空を描く。


 龍玉はやっと右手の饅頭に口をつけて。そのままぱくつき、ぺろりとたいらげて。そばに置いた徳利を手に取り水を喉に流し込む。

 虎碧と香澄、世界樹の子どもは静かに事の成り行きを見守っていた。

「あん」

 変な声がして、つい気を取られてしまった。胸の谷間に挟んだ饅頭を取ろうとして、擦れて、そのために声が出たようだ。

「……」

 この、緊張している時にと虎碧は絶句し、恥ずかしい気持ちを禁じ得なかった。香澄と世界樹の子どもは気付かぬふりをして、じっと絵を見据えていた。


「ええい、畜生ども任せにしねえで、オレとサシで勝負しやがれ!」

 源龍は阿修羅に吠えた。

 悔しいが獣どもは数が多く、衆寡敵せずで勝ち目はない。ならばと、挑発して阿修羅との一対一の勝負に持ち込もうとした。

「言っただろう、オレはお前ら如き相手にせぬと!」

「愚かな人間め!」

 阿修羅に続き人狼も吠える。源龍のムカつきも頂点に達する。

「阿修羅の威を借る狗めが!」

「言ってろ馬鹿!」

 人狼もさるもの、挑発には乗らず、やり過ごす。

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