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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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悪趣巡遊

 しかし、基本的に人より体力で上回る獣である。それぐらいなんだと、少しばかりひるんだが、別の獣がすかさず迫る。

 さっきと同じように得物で打てるところを打ったが、それも効き目は少なく、打たれてひるんだと思っても、別の獣がすぐに襲い掛かる。数の上では完全に獣が勝っているのだ。

 人狼は腕を組んでその様を眺め、阿修羅も微動だにせず源龍と貴志、獣の戦いを眺めている。

「ええい、鬱陶しい雑魚どもが」

 さすが獣は人間のように一撃で仕留められず、そのために源龍も攻め手をかわし、跳躍しつつ逃げるしかなかった。貴志もなんとかならないかと思った時、いちかばちかと、浮かぶことがあった。

「まともに相手することないんだ」

 貴志は槍の穂先を葉に突き立て、引き抜きざまに跳躍すれば。泥水がびゅっと噴出し。うまい具合に迫る狼の下顎に当たり、突然のことに驚いて動きは鈍り。その隙を突いて打龍鞭は脳天に迫り。果たして、ごん、と鈍い音がし。頭蓋骨が砕けた感触を確かに感じて。

 狼はへたり込んでぴくりとも動かなくなった。

 その間も貴志は円を描くように駆けながら、槍で地面、もとい葉を突いては泥水を噴出させ。ついには、円柱並ぶような八つの泥水の噴水をなした。

「この中に!」

 貴志は素早く泥水の噴水の円柱の囲みの中に駆け込んだ。源龍も続いた。

 円柱状の八つの泥水の噴水は上へと噴き出し、頂点で傘をつくって周囲に泥水を散らしてゆく。あの地の獄の檻のように、噴水は鉄格子になったかのように獣どもを寄せ付けない。

「なんだよ、オレの獲物より水が怖いなんて」

「畜生なんてそんなもんさ」

 源龍は納得いかないようだが、貴志は少しは得意な気持ちになり安堵もした。とはいえ、泥水は自分たちにも散る。手を目の上にかざし口を閉じて、泥水が入らないよう気を配らなければならなかった。

「ううむ、やるな人間!」

 人狼はうなる。獣の性か、泥水を怖じる自分に怒りを感じてもいるようだ。

「もたもたするな!」

「申し訳ありません!」

 阿修羅は三面を怒らして人狼を叱責する。人狼も阿修羅にはひたすら卑屈だった。

「見えるぞ、お前たちは異次元から、異なる時代から来たのだな!」

 人狼もなぜか色々と見破ったが、阿修羅ももちろんとばかりに色々と見破るようだった。

「なるほど、僕の考えも分かってたようだし」

「人の考えが分かるなんざ気持ち悪ぃ野郎だな!」

 源龍はムカつく気持ちのままに阿修羅に舌を出しあからさまに侮辱する。

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