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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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悪趣巡遊

 龍玉は饅頭に口を付けぬままに、絵を凝視し。

 虎碧と香澄、世界樹の子どもも、同じように静かに眺めるばかり。目をそむけたとて、会話の声は聞こえ。その声につられて、目は絵を見るのだった。


 突然、火の玉が消え。周囲は闇に包まれた。

 牢獄が揺れた。源龍と貴志もたまらず片膝を着いてしまったが。次の瞬間、なんと牢獄が宙に浮く、というより何かに掴まれて持ち上げられるような感じだった。さらに、ぶうん、と放り投げられて。

 源龍と貴志は中で振り子のように振り回されて、鉄格子に身体をぶつけ。得物を離さぬようにするのがやっとだった。

 円柱形の檻であった牢獄は宙を飛んで、やがて落下。ごろんごろんと転がり、その中でさらに転がされて。しばらくしてやっと止まった。

「くそ、なんだよ一体」

「また、どこかに行かされたのかな?」

 目を開けば、鉄格子は歪んで幅を広げて。そこから出て、周囲を見渡す。

「……え?」

 目を疑った。あの暗闇の地の獄から、今は緑ひろがる何かの葉っぱの上にいるのである。

 その葉っぱはとてつもなく広く、緑の地平線が見えるほどだった。

 貴志はかがみこんで、葉っぱに触れた。ふわふわとしているが、直に手で触れて。

「これは、蓮の葉だ」

 と言う。

「蓮の葉だと?」

「そうだ、僕らは蓮の葉の上に飛ばされてしまったんだ」

「けっ。そりゃ何の仏罰だってんだ?」

「……僕らは小さくなって蓮の葉の上にいるのかな?」

「なんだと?」

 源龍もかがんで葉を触った。しかし、葉っぱであること以外はわからない。

 ふはははは……。

 不意に上空からけたたましい笑い声がしたかと思えば。源龍と貴志は咄嗟に得物を構えて、笑い声のする方へと目を向けた。

「こいつは……!」

 源龍も貴志も心身ともに引き締まるのを禁じ得なかった。笑い声の主は、腕が六本ある。顔の両横にまた顔がある。いわゆる三面六臂の姿で。金色に輝く鎧を身にまとっている。

 上二本の手はとうを持ち、中二本と下二本の手は鎖を握っているが。鎖は全部で十本ほどあり、その鎖の先には、狼や虎、熊がつながれていた。さらに、驚かされたこともあった。


「あ、あの犬野郎!」

「龍お姉さん、人狼よ」

 というやり取りがなされた。

 目の前の絵の展開の進み具合はあまりにも滅茶苦茶で理解が追い付かないでいた。そこに、畜生を鎖でつないだ阿修羅が現れた。さらに、あの人狼までもが鎖で繋がれているではないか。

 これは一体どういうことだと驚きを禁じ得なかった。

 しかし、結局は見るしかなかった。

 龍玉は両手に、そして胸の谷間に饅頭を挟んだまま、口を付けずにいる。それほどまでに絵を見るのに集中させられていた。

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