悪趣巡遊
香澄も世界樹の子どもも、互いに目配せしながら苦笑しつつも。龍玉のあっけらかんとして明るい性格には好もしいものを覚えた。
虎碧は顔を赤くして絵からも龍玉の胸からも目をそらしていた。
「ここは地下の牢獄……?」
貴志は気持ちの悪さを堪えて周囲を見渡す。落とし穴にはまって落ちてみれば。どうも自分たちは地下の牢獄に閉じ込められたようだ。
「まさに地獄じゃねえか」
源龍は取った腰兵糧の袋を開けて、改めてぱくつく。とりあえず、この中にいれば安全ではあった。
そしてそれらの光景を見ることができるのは、虚空に人魂、あるいは鬼火とでも言おうか。数個の火の玉がふわふわと浮いて、この闇に包まれた牢獄のある地下をわずかでも照らし出しているからだった。
その火の玉は襲い掛かることはなさそうだったが。そこに何らかの人並み外れた力が作用しているのは容易に想像ができる。
とはいえ、今はなす術もない。貴志もため息をつき、もらった袋を開けて。中にある小さな饅頭を口にする。
顔色は悪くなくなっていた。腹も減った。
「身体が動くんなら動かした方が気分も戻るだろ」
「そうだね」
と、源龍に言われて。返事をしながら、こんな危機における経験は豊富なのだと改めて貴志は思った。
(確かに僕は温室育ちだ)
「ねえ」
「え、何? 龍お姉さん」
「あの貴志って人いい人そうだから、あんた身を預けたら?」
「……!」
こんな時に何を! と虎碧は絶句し。香澄と世界樹の子どもも呆気に取られる。
二の句も告げず、重い沈黙が漂ったと思えば。途端にざわつく。
「ひ、畜生じゃ!」
「いやじゃ、畜生の餌はいやじゃ!」
餓鬼どもが悲鳴を上げる。餓鬼同士共食いをするようなひどい有様を見せていたのだが。どこからともなく、何かの轟き音がした。
耳を済ませれば、何度も音は轟き。それは獣の咆哮であることが分かった。餓鬼どもは共食いをやめ、静かに耳をそばだてていた。
源龍と貴志が閉じ込められている牢獄のある地下は、広い洞窟なのか。火の玉もすくい出せぬほどの闇も同じように広がっているほどに、広い。
その闇の向こうから獣の咆哮が轟くのである。
「これは」
にわかに餓鬼どもがざわつく。加えていた細い指をぽとりと落とす。
「世界樹はオレらに何を見せたいんだ?」
源龍は鉄格子の向こうで繰り広げられる光景を眺めて舌打ちする。貴志はため息をついて、それを見ぬように目を閉じ瞑想する。
餓鬼どもは、わっ、と騒ぎ出して。闇の向こうへと遮二無二に駆け出す。




