悪趣巡遊
「これも世界樹の思し召しだろうけど、さすがにこれは予想外だったなあ」
絵の中では源龍と貴志が迫りくる餓鬼どもを薙ぎ払っているが、それは世界樹の子どもの瞳にも同じように映っていた。
「あッ!」
虎碧は思わず声を上げ、龍玉は驚きくわえていた饅頭をぽろりと落とし、かろうじて手で受け止める。世界樹の子ともと香澄も緊張の面持ちを見せる。
相変わらず金粉は粉雪のようにはらはらと舞い落ちる。
迫りくる餓鬼どもを薙ぎ払いながら駆けていた源龍と貴志だったが。突然足元がずるりと滑り。
「うおお!」
ごろんと転んで、斜面を転がってゆく。そこは草木も生えぬ土塊の大地だった。土の団子や石ころとともに、源龍と貴志はころころ転がってゆく。
しかし、なんと、餓鬼までもが続いて同じように転がり落ちてゆくではないか。
「あぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
餓鬼どもはおかしな声をあげながらころころ転がり、その姿は滑稽そのものだった。
平地まで転がり落ちて、素早く立ち上がった源龍と貴志はふたたび駆け出す。ゆっくりする暇などない。しかし、いかにふたりが武芸や体術を体得し、それなりに体力があろうと、永遠にあるわけでもなく有限なものだ。
このままでは力尽きて、最後動けなくなって食われるのは不可避。
「まったく、糞世界樹め! 死なせたんなら黙って死なせろってんだ!」
「まったくだよ、なんだかんだで僕らいたぶられてんじゃん」
源龍も貴志も愚痴がこぼれてしまう。こぼしたくもなるというものだ。
というとき、突然足元が抜けて、落下。落とし穴にはまったようだ。
「なんでだよ!」
人気のない無人の荒野に都合よく罠があるなど。あんまりにもあんまりだと、ふたりは表には出さなくても内心は嘆く心でいっぱいだ。
それでもどうにか受け身を取り、衝撃を最低限に抑えるための体勢をとれば。どん、と地の底に着地。
「いちち……」
ふたりは踏ん張って力を振り絞って起き上がってみれば。
「はあ、なんじゃこりゃ!」
「こ、ここは?」
まさかのことに目を疑い、何度も何度も目を凝らしなおした。
自分たちは檻の中にいる。狭い間隔、拳ほどの隙間で何本も建ち並ぶ鉄格子が円形に自分たちを取り囲んでいる。上を見れば、これも同じように狭い間隔で鉄格子が檻の蓋をなしており。その上に餓鬼どもが落ちては転がり、地面に叩きつけられてゆく。
「……」
ふたりは訳も分からず檻に閉じ込められているが、そのおかげで餓鬼から危害を加えられることはなかった。




