悪趣巡遊
その頑張りの甲斐あってか、死体は見えなくなり戦場は脱したようだった。しかし、餓鬼はしつこく迫ってくる。
「こいつらあんななりで……。腹が減って痩せこけたんじゃねえ、兎にも角にも餓えてあんな姿になったんだな!」
痩せこけた身体にもかかわらずのあの力のありよう。その姿は比喩的なものであると源龍は悟った。貴志は反応をしそびれたが、内心よく気付いたと感心する。
「……て言うか、なんかお茶やお菓子が欲しいねえ」
「龍お姉さん! こんな時に」
虎碧は龍玉の言葉に驚き、思わず呆れた。仲間でないにしても、縁があって巡り会った者の危機を目の前にしてそんなことをと。
香澄はくすりとややおかしそうにする。
「お菓子が欲しいのかい?」
後からそんな声がして、振り向いてみれば、そこには金髪碧眼の子ども、世界樹の子どもがいるではないか。
背中にはなにか大袋の荷物を背負っている。
「僕も思い切って、ひらひら落ちる金色の羽を伝って来てみたんだけど。意外に行けたもんだね」
とにこりと微笑みつつ、大袋を下ろしてふわふわの雲の上に置いて口を開けば。徳利や大小様々な饅頭が入っていた。
「あら、まあまあ! 気が利くねえ!」
龍玉はほくほく顔だ。虎碧は呆気に取られる。
「よくここまで来られたわね……」
「うん、ちょっと怖かったけどね」
肩に落ちてたまった金粉を払いながら世界樹の子どもは虎碧に微笑みかける。
「で、僕の瞳に同じように映っている?」
自分の碧い瞳を指差し、三人に見てもらえば。
「ええ、見えるわ」
香澄は静かに答える。
「どうにも僕の中でなんか騒がしくて、じっとできないんだ。それなら、なんか援護できないかと食べ物と飲み物も持ってきたんだけど」
「いやあ、いい子いい子! よく来てくれたね!」
龍玉はご機嫌で世界樹の子どもに抱き着き、頬ずりまでする。
「大きくなって女を知りたくなったら、あたしが教えてあげる」
「龍お姉さん!」
子どもを相手に何をはしたないことを言っているのかと、虎碧は聞いてて自分が恥ずかしくなった。
香澄はおかしそうに微笑む。
「いや、いや、僕はそんな趣味はないよ! 放して、苦しい」
気が付けば世界樹の子どもの顔は龍玉の豊かな胸にうずまっていた。
「まあー、その奥ゆかしさがますます可愛いわ」
言いながら放して、袋に手を伸ばして、中から徳利と饅頭を取り出す。まったくしっかりとちゃっかりしたものだと、虎碧は苦笑。香澄は相変わらずの微笑み。
「でも、雲の上にこんなのが」
世界樹の子どもは近くまで来て絵に手を伸ばすが、虚空を掴むばかり。




