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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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悪趣巡遊

 が、なによりも、痩せこけ腹が異様に出っ張っているという、飢餓状態の見ていられない有様だった。

 その痩せこけ、腹が出た姿を見て、ふと、

「餓鬼?」

 ぽそっと、そんな言葉が出た。子どもを現す言葉でもあるが、もとはといえば、地獄に落ち飯を食えずに餓えた亡者を現す言葉だ。

 皆目は虚ろで、足元もよろけておぼつかない。

「食い物、食い物だあー!」

 誰かひとりの餓鬼がそう叫んだと思うや、その他大勢の餓鬼どもは、足元に転がる兵の死体に噛みつき。貪り食らい出したではないか。

「行くぞ!」

 打龍鞭と大袋を担ぎ、貴志の脚を軽く蹴って、源龍は駆け出した。いちいち驚いて付き合ってやる義理などないのだ。

 貴志も続いて駆けだした。

 兵の死体を貪る餓鬼どもは、源龍と貴志を見るや、

「人間だ、生きた人間だあー!」

「生きのいい肉が食えるぞおー!」

 歯の欠けた大口を開いて、もろ手を広げて、駆け足で迫りくる。あんな痩せこけた飢餓状態の身体のどこにそんな元気さがあるのか。

 などと考える暇などない。

「どけどけッ!」

 源龍は片手で袋を持ち、片手で打龍鞭を振るい。餓鬼どもを薙ぎ払う。貴志も槍を振るって、その柄で餓鬼を薙ぐ。

「まさに地獄の餓鬼だ!」

 貴志は呻いた。源龍は無言。ぱっと見哀れさを催す姿ながら、それが危害を加えようと迫ってくれば哀れさも吹き飛ぶ。

 薙ぎ払われ、吹き飛ばされた餓鬼はもんどりうって転倒し。そこに他の餓鬼が迫って貪りつくではないか。餓鬼が餓鬼を食らう、餓鬼同士の共食い。

(あの煙の夢の続きか)

 餓鬼が、同じ餓鬼の、肉が落ちて枯れ枝のように細い腕をありがたそうにしゃぶりつく。それは地獄絵図でもあり、人心の根底にある悪趣の発露でもあった。

(地獄って、悪趣を見せられる事なのか)

 そんなことを閃きつつ、駆けて、槍を振るい、迫りくる餓鬼どもを薙ぎ払う。その少し前に源龍。

「しっかりしろよ、オレはお前の露払いじゃねえぞ!」

 などと言う。

「なんだよ、まるで僕が君に頼り切っているような言い方をするな!」

「頼っているんじゃないのかよ!」

「頼ってないよ! ……見てろ!」

 貴志はより気合を込めて駆けて源龍に並んで、槍を振るう。


「はは、やるもんだね」

 龍玉はうんうんと頷き笑顔を見せる。源龍も意図してかどうか分からないが、貴志は奮発し、元気が出た。

 虎碧は手を組んではらはらした様子で絵を眺め。香澄は落ち着いて見据えていた。


 源龍と貴志は戦場にて迫る餓鬼を薙ぎ払いながら駆ける。

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