悪趣巡遊
ふところに筆の天下を忍べているが、さてこの天下はなんの役に立つのだろうか。
「ほらよ」
源龍がまた何か持ってきた。今度は槍だった。接近戦用の短い槍だ。
泥土に汚れているが、血は付着していない。
「使う前に仕留められたみてえだな。なんかあった時に、無手じゃ心許ねえだろう」
「……。ありがとう」
青い顔でしゃがんだまま、手だけ伸ばして槍を受け取る。
(源龍けっこういい奴だな)
内心それくらいのことは思った。
「無理にでも食っとかねえと、いざって時に動けねえぞ」
「無理に食べたら、もどしてしまうよ」
「ちぇ、だらしのねえ」
どこでみつけたのか大きな袋に腰兵糧を詰め込んで担いでいた。自分がうなだれて視線も落ちて地面を眺めている間に、食べるものを求めてうろついて。槍はついでに見つけたようだ。
「しかし、戦のあとの死体転がる有様は、いつ見ても地獄だな」
慣れているような源龍でも、そう思うのだから貴志ならなおさらだ。その貴志はしゃがみこんで、源龍は立って見下ろす。
「ここはどこなんだろう?」
「さあな、あの糞鳥の腹ん中のはずだがな」
「それにしても……」
自分たちはどこか遠くの戦場に飛ばされてしまったようだった。
「世界樹の仕業かな?」
「……」
源龍はしばし黙ったままだったが、
「かもな」
とだけ、そっけなく答えた。
「それより、ここから離れるぞ。戦の後にゃ、物取りが来るんだよ」
「物取り……」
それは、源龍が兵の死体の腰兵糧を取ったように、死体からあれこれ剥ぎ取る不逞の輩が来るということか。
(ああ、そんな話聞いたことはあるな)
なるほど物取りや盗賊が集団で来たら厄介だ。気を振り絞って立ち上がり、源龍に言われた通りに戦場から離れようとする。
が、しかし。
「遅かったか」
忌々しく源龍は舌打ちし、大袋を下ろして打龍鞭を構え。貴志も続いて槍を構える。
「物取りが来たのかい?」
龍玉も緊張したように絵を眺め、虎碧も無言で成り行きを見守り。
「どうかご無事で」
と祈るしかなかった。
香澄と言えば、落ち着いたものだった。
しばらくして、龍玉と虎碧は目を見開いて、現れた者たちの姿に唖然とさせられた。
「なんだこいつら?」
いつの間にか、集団に囲まれていた。それらはいつ来たのかわからないが、囲まれてしまった。それ以上に、それらの姿を見て源龍はあからさまに不快さを示して、貴志の顔はますます青ざめた。
「流民?」
それは皆着るものはぼろぼろで素肌の多くがはだけてほとんど裸同然のひどい有様だった。




