悪夢戦闘
「君は」
ふと、同室の学友がいないことに気付く。寮はやけに静かだ。夢ではないというなら、なぜこのようなことに。
「君は、ええと、香澄?」
「そうよ、源龍に教えてもらったのね」
「知っているのか」
頷く香澄に、貴志は茫然とする。
「夢と思えば夢、現と思えば現」
子どもはそんな意味ありげなことを言う。
「あなたにはやることがあるわ。生まれ変わって」
「何を言ってるんだ。正気の沙汰じゃない」
松明の灯を背にする少女、香澄の顔がほのかに闇から浮かび上がる。その黒い瞳も闇からすくい出されるように輝く。
「ここは暗いから、世界樹に行こう」
ぱちんと、指を鳴らす音がしたかと思えば。松明の灯が消えて。次にぱっと光がともれば、だだっ広い緑の草原。草原に天まで届くかと言うほどの大樹がたたずみ。その周囲には、数十人の子どもたちがいる。
その中に、黒衣の、硬鞭を担いだ男がいる。
「あ、源龍」
「言ったろ、こうなると」
源龍は同情するように苦笑する。
「ここは……」
「世界樹のふもとだよ」
「世界樹のふもと」
貴志は小声でつぶやく。周囲にいる子供たちは、目の色や肌の色、髪の色さまざまで。まるで人で虹をなすかのような雰囲気があり。思い思いに遊んでいた。
そして、なにか胸にしみるものを、貴志はおぼえてしまった。
最初濃い霧に包まれていたのが、今は晴れて見晴らしもいい。太陽の光もふりそそがれて、ほどよくあたたかい。
「それで、僕はどうなるんだ?」
「そうだね、とりあえず香澄と源龍と行動をともにしてもらおうか」
「どうして?」
「香澄の言う通り、やることがあるんだよ」
「誰がそれを決めるんだい?」
子どもは世界樹を指さし。
「世界樹だよ」
と言う。
「世界樹」
貴志はぽそりとつぶやいて、
「僕は、昔ここにいたような気がする」
と言い。源龍は目をぱちくりさせて呆気にとられる。
「お前、気は確かか」
「自分でも不思議なんだけど、そう思うんだ」
香澄と子どもは向き合って微笑み合う。
ふと、めそめそ泣く子どもが視界に入った。源龍は、まさか、と思っていると。
「瓦礫に埋もれた刑天を掘り出すの大変だったよ」
と、子どもは笑って話す。崖崩れで埋もれたが、死にはしなかったようだ。
刑天はもとは人間だったが、与えられた力に奢って。力に呑まれて、ついには刑天なる化け物になってしまった、と。
「で、貴志の力試しも兼ねて、オレらにお仕置きをさせたってか」
「それもあるね。でも、己に食われるっていうのは、相変わらず、怖いことだね」
「……?」
何を言っているのか、貴志はわからないが。めそめそ泣く刑天であった子どもを見て。
「なんだかよくわからないけど、そんなことがあるんだと覚えておこう……」
と、言う。




