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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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悪趣巡遊

 鳳凰に飲み込まれてしまったと思えば、自分たちはどこを流されているのか、記憶は途切れ途切れておぼつかず。気が付けば、この戦場。

「おい」

 そう声をかけられても、貴志は返事をしない。いや、できなかった。

 顔を真っ青にして、絶句している。

(……。そうか、温室育ちのお坊ちゃまだからな)

 源龍は江湖の武人として、市井の最下層から戦場まで、人のありとあらゆる、あらぬ場面を見てきて。見慣れた。しかし、貴志はそうではなかった。

「……」

 青ざめる貴志をよそに、源龍はきょろきょろ視線を動かし。すたすた歩きだしたかと思えば、死骸の腰に括り付けられている拳大の袋を取った。中を見た。

「よしよし」

 満足そうにうなずき、他の死骸から同じように袋を取り。中を覗き、うんと頷き。貴志のもとまで戻ると、

「食え!」 

 と突き出す。それは腰兵糧だった。間に合わせながら拳大の袋に饅頭や干し肉などを入れて、小休止のときにぱくつくのだ。

 貴志はしゃがみこんだ。さながら魂が抜けたようだった。その隣に源龍が腰掛け、袋から饅頭を取り出しばくばく食らった。


「対照的だねえ」

 龍玉は思わず突っ込む。こんな時にも動じず、死んだ兵の腰兵糧を取って、食おうとする源龍の姿に、むっとするような玄人臭さを禁じ得なかった。

 対する貴志は、もう顔面蒼白でしゃがみこんで、何もできなさそうだった。源龍にひとつ袋を押し付けられたが、食おうとしない。

 虎碧も言葉もなさそうだった。

 香澄といえば、雲の中浮かぶ絵を眺めていたが。おもむろに前に少し跳躍し絵のすぐそばまで来て、手を伸ばし、源龍や貴志に触れようとした。

 しかし、手は絵をすり抜けてしまい。掌を握りしめても虚空を掴むばかりで、何の手ごたえもない。

 手を元に戻し、後ろに少し跳躍してまた絵を眺める。

「ただ見るしかないってこと?」

 龍玉も試してみたが、同じように虚空を掴まされるばかり。

「でも、何かがありそうな気がする」

「うん……」

 虎碧の言葉に、香澄は頷き。龍玉と三人、じっと、鋭い眼差しで絵を眺め続けていた。

 

「地獄だな」

 貴志はぽそりとつぶやいた。

 鳳凰に飲まれて、もう死んだ! と思ったら、この戦場である。

 空はどんよりと曇り、周囲も薄暗い。今の時刻はどのくらいなのだろうか。朝方か夕方か。昼かもしれないが、そうだとしてもそうとは思えない薄暗さだった。

 このまま時が経てば、この戦場も夜の闇に包まれる。その時にどんな怪異が起こるかわかったものではない。

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