悪趣巡遊
他の船から子どもたちを乗り移らせて、漁村の人々や龍玉や虎碧に、年長の子どもらが、幼い子どもをあやす。
幼い子どもらも泣き疲れてか、あやされてか、いつしか寝息を立てて眠りについた。
「悪い夢を見たと思いたいが、夢ではないのだな」
志煥は周囲を見渡し、人々に声をかけながら、この現実の重さに気が滅入っていた。
「ここは、ひとまず漢星にゆくしかないのでは」
「武徳王は慈悲深い君主でございます。この子どもらのことを訴えれば……」
そんな意見もあった。志煥も考えたが、決意しかねた。武徳王はともかく、臣下の中には心無い者も多い。その者らにはめられて、小さな漁村に派遣されたのである。
「……。ゆくか」
このまま海に浮かんでいても埒が明かない。思い切ってゆくしかあるまいと、しばし思い悩んだ末に、ようやく決意した。
「いざとなれば、私が皆さんをお守りします」
そう言うのは香澄であった。
「かたじけない」
志煥は娘ほど年下の香澄に頭を下げた。武において己の無力さを痛感させられているから、香澄たちに頼るしかなかった。
「これも何かの縁さ、あたしも協力させてもらうよ」
龍玉は笑顔で言い、虎碧も微笑んで頷く。
羅彩女は、我どころか魂まで抜けたような有様だった。それがいつの間にか横になって寝ていた。というより、時間をかけてまた気を失ったと言うべきか。
世界樹の子どもは他の子どもをあやして寝かしつけて、なにか、ぴくりと身体を震わせた。
あたりは真っ暗である。幸い今夜も天候は落ち着いているから、そのまま雑魚寝もでき。皆思い思いに雑魚寝して、眠りについた。
何か夢でも見るか、と思ったが。そのまま、日が昇る時刻に目覚めた。
「ねえねえ、僕の目を見て」
世界樹の子どもが自分の碧い目を指差し、香澄に言う。
「……」
言われて香澄はその目を覗きこめば。
「源龍、貴志?」
ぽそりとつぶやいた。世界樹の子どもは頷く。なんと世界樹の子どもの碧い瞳に源龍と李貴志が映し出されているのだ。
羅彩女が飛びつくように駆けてきて、世界樹の子どもの肩を掴んで、怖い顔をさせて碧い目を覗きこむ。
「源龍!」
羅彩女は思わず叫んだ。
「ちょ、ちょっと羅彩女お姉さん、痛いよ」
「源龍! 源龍!」
世界樹の子どもは苦笑しながら放してと言うが、羅彩女は聞かず。やむなく香澄は当て身を当てて、気絶させて引き離した。