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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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迷人悪夢

 酔った状態で浮かび続けられるわけもなく、飲まれるように沈んでいった。

 子どもたちの泣き声が響く。親がすでに食われた子もいる。救うにも救えない。

「地獄だ……!」

 貴志はたまりかねて、そう呻く。

「ひゃあっはっはっはっは!」

「人間ってなあ、面白いなあ。オレたちがなーんにもしなくても、勝手に死んでいくんだから」

「物の怪や人に非ざる者はとばっちりだが、それに勝る面白い見世物だぜ」

「おい、教えてやるぜ! 地獄をつくるのは他の誰でもねえ、人間そのものだよ! オレたちゃ見物してるだけさ!」

 人狼や画皮はこの有様を面白おかしそうに楽しんでいた。怒りを覚えた。しかし、その言葉には一理あった。鳳凰が酒樽を出したとはいえ、その酒を飲めとは言わなかった。なのに、人が自ら進んで酒を飲んだ。制止を振り切ってでも飲もうとした。

「……!」

 痛みも引いて、源龍は再び跳躍した。貴志も続いて跳躍した。人間離れした跳躍力を見せて、空の鳳凰の前まで飛び上がった。

 眼前には嘴。源龍は嘴めがけて、打龍鞭を振るった。貴志は筆を武器として使うのは不本意ながら、筆先を目に向け突き出した。

 だがしかし。鳳凰・天下の嘴が大きく開かれて、ごおー、という風の音強い音とともに。風に押し流されて、嘴の中に導かれてゆくではないか。

 ふたりはじたばたしながら足掻くも、抵抗の甲斐なく、そのまま嘴の中へと流されて。飲み込まれていった。

「源龍!」

 羅彩女は悲鳴を上げて失神し。龍玉と虎碧は唖然とし。香澄と子どもたちもさすがに緊張感をたたえた表情を見せた。

 鳳凰・天下は邪魔者を飲み込んだ後、急降下し、海に浮かぶ人たちを。海の鳥が魚を獲るように勢いよく海に突っ込み様に、人々を嘴で挟んで急上昇し。上昇しながら飲み込んでゆく。

 羅彩女が失神したことで、人狼の船の酒樽は無防備になってしまい。人が迫る。志煥はやめろと叫ぶが、聞く耳も持たず。そこへすかさず龍玉が飛び移り、酒樽に迫る人々を払う。

 虎碧もあとに続き、かがみこんで羅彩女の様子を探る。失神しているだけで、危ない状態ではなかった。

「だらしないねえ」

 龍玉は呆れたように言う。しかしその様子から、彼女が源龍に思いを寄せていたのではという予想はできた。虎碧も目を閉じ突発的に眠りに陥らされたその寝顔を覗き、また目から涙が溢れているのを見て、それを確信した。

 それから、不本意ながら当て身を当て気絶させてゆく。

「ははは、天下に食われてしまっては、もうどうしようもないな」

 人狼は人獲りにいそしむ鳳凰・天下を見ながらほくそ笑む。


迷人悪夢 終わり

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