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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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迷人悪夢

「どうせ碌な人生歩めやしねえんだ!」

「このまま生きてたって、どうせ、碌な死に方しねえんだ。それなら酒をかっくらって……!」

 などと言いだし、さらに酒樽の酒を求めた。

「父ちゃん、母ちゃん、やめて!」

 子どもが泣きながら取りすがるが、それを足蹴にして、酒樽に迫る。虎碧はあまりのことに目をそらしながらも、素早く子どものもとまで駆け寄り、慰め。

「馬鹿野郎ッ!」

 龍玉は怒りの叫びをあげて、当て身を当てて気絶させた。

「これが、これが人間って奴なの!」

 その目からは涙が溢れていた。

 酒を飲み鳳凰に食われた者の中には、身分卑しからぬ様相の者もいた。その者はきちんと教育もうけて教養も身に着けているであろうに、それでも心の奥底から沸き起こる欲求に食われて、さらに鳳凰・天下に食われてしまった。

迷人悪夢ミィレンアモン……」

 香澄はぽそっとつぶやいた。抗いがたいほどに魅力的な内なる欲求・欲望から迷い人となり、自ら悪夢に導かれて、自ら鳳凰・天下に食われて。

「人は弱いものだ。傲慢も、臆病の裏返し。弱い自分に負けぬために、道理や足元の生活を大切にする哲学を生涯にわたり学ばねばならぬのだ」

 志煥も涙止まらぬ様子で語る。さらに、

「この酒樽の酒を飲ませぬようにするのも、役人である私の役目なのだ!」

 涙は止まらず、顔は真っ赤で。彼自身も酒を飲みたいという欲求があるのだろうが、それを必死に堪えている。

 そうする間にも人は鳳凰のもとまで泳ぎ着いて、ついばまれて飲まれてゆく。それでも人の顔は上気して、気分は極楽という感じであった。なるほど人生を諦めた者にこれでもかとあらぬ死への希望を持たせる光景であった。

 刹那、影が飛ぶ。

 それ鳳凰・天下に迫る。

 源龍だった。打龍鞭を振るい、脳天に叩きつけようとする。しかし、鳳凰・天下は翼を広げて、風を巻き起こして舞い上がる。

「うおお!」

 跳躍し鳳凰・天下に迫った源龍だったが。風に巻き込まれて、跳ね返されて、反対に青藍公主の船まで落下しゆき背中をしたたかに打つ有様。

「くそ……」

 駆け寄る貴志を手で払い、痛みをこらえて起き上がる。

 空を見上げれば、鳳凰・天下は自分たちをあざ笑うかのように翼を広げて空を舞っている。

 貴志も筆の天下を握りしめている。様々なことがあった合間に、くうに「天下」と書いてみたのだが。字は浮かばず、なにもなかった。

「どうすりゃいいんだよ!」

 羅彩女も呻く。

 海にはまだ食われていない者もいたが……。

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