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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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迷人悪夢

 音もたてず、風に舞う羽のような軽やかな動きを見せて駆けて。人々に迫るや、当て身を食らわし、気絶させてゆく。

「阿片の中毒患者みたいだ」

 うめくように貴志は言う。阿片という快楽を覚えさせる毒があるが。阿片を覚えた者は中毒になって、身も心も破滅するのも承知の上で阿片を死ぬまで求め続け。それはやめようにもやめることができぬほどだという。

「人の心に巣食う色んな欲求は、阿片のように人を中毒患者にするのか。まるで阿片が人の内側から出てきているみたいだ」

 心が凍てつくような恐ろしさを禁じ得なかった。

「くそ、どうすりゃいいんだよ!」

 迷いの呻きを漏らす源龍、それを見てほくそ笑む人狼と画皮。取り澄ました感じで海に静かに浮く鳳凰・天下。

「……やむを得ん!」

「仕方ないね!」 

 源龍や貴志、龍玉に虎碧は意を決し。人々に当て身を食らわせ気絶させて回ろうとしたが。

 先に酒を飲んで酔いつぶれて倒れて、煙を発してその内心の夢を映し出していた者らは、おもむろに起き上がるや。船縁を乗り越えて、海へと自ら落ちた。

 さぶんさぶんと人が海に落ちる水音がし。海中の魚は慌てて逃げ出す。

「何やってんだ!」

「自分から海に落ちるなんて」

 意表を突かれて止める間もなかった。多くの者が自ら海に落ち、さらに鳳凰向かって泳ぎ出すではないか。とはいえ、中には泳げず溺れる者もいる。それでも、

「向こうに行けば、ほんとうに欲しいものが手に入るのに!」

 などと叫ぶ。

「さあここからが見どころだぞ!」

 人狼は言い、画皮たちはさらに歪んだ笑みを見せた。

 くわッ、と鳳凰の目が見開かれたと思えば。嘴を開け、すうー、と大きく息を吸い込みだした。

 まず溺れた者が海から浮いたかと思えば、そのまま鳳凰へと飛んで。嘴の中へと吸い込まれていった。その間にも海に落ちた者らは鳳凰のもとまで泳ぐ。

「……」

 それを見る源龍は言葉もなく唖然とする。

「そうか、天下は人が自ら進んで食われるように仕向けたのか」

「よくわかんないけど、人間は餌ってこと?」

 貴志の言葉に龍玉が問う。

「そうです。この鳳凰は天下の象徴で、人を食らって肥え太る化け物なんです!」

「天下は人を食らって肥え太る化け物……」

 龍玉は貴志の言葉を反芻し。

「めちゃくちゃ説得力あるねそれ」

 唖然としつつ、その意味を汲み取る。

 その間に鳳凰のもとまで泳ぎ着いた者が数名いるが、それらは片っ端から嘴でついばまれて、飲み込まれる。

 まだ酒を飲んでなく、気絶させられていない者は、その光景を見て。さぞ怖気を感じたろうと思われたが。

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