表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
190/539

迷人悪夢

 志煥は胸に限りない痛みを覚えた。己の、過ちの過去を打ち明ける。

「本当の正義は敵がなくとも成り立つ。身勝手な正義のために、弱者を悪者に見立てていじめて。正義の戦いをしていると錯覚していたのだ、私も……」

「正義の戦いをする者が美形でも心が醜く、悪者とされる者が醜くも涙を流して命運を嘆くのは、比喩表現ですね……」

 貴志が煙の中の、似非の正義の戦いを解説する。

「つまり、その、これは、夢? 煙に夢が現れているのかな?」

 見よ、美しい外見にもかかわらず、その快楽に溺れ歪んだ笑顔。醜い、と強く思わされる。逆に、醜い者の流す涙。その涙のきらめきのせいか、それらを醜いと思えなかった。

 さらに、別の煙では、小さく縮まって震える人々。そこからさらに煙が立ち上り、先に挙げた様々な人の姿へとつながってゆく。

「恐怖、すべては恐怖から、か」

 貴志は呻く。

 ぶうんと唸りを上げる打龍鞭。酒樽を打ち付ける。しかし……。

「くそ、びくともしねえ!」

 人が受ければ骨が粉々に砕ける威力も、なぜか酒樽には通じなかった。結局、人を払うしかなかった。

 それぞれ手分けし、別の船へと飛び移って、酒樽に蹴りを入れたりするが。びくともしない。それどころか。

「邪魔するな!」

 悪鬼の形相で襲われて。やられることはないものの、仕留めることもできず。やむなく元の青藍公主の船に逃げるしかなかった。

「お役人さま、その酒を飲ませてください。お願いします」

「お役人さまも、飲みたいんじゃないんですか?」

 漁村の人々はそう言って酒を飲ませてくれと懇願する。土下座までする。しかし志煥は悪鬼のような顔をして。

「ならぬッ!」

 あらん限りの声で叫んで、人々を追い払った。子どもたちの泣き声がする。青藍公主の船は世界樹の子どもとリオンが手分けしてなだめ、人狼の船にはいつの間にか香澄が飛び移り、子どもを自分のそばに集めてなだめている。

「お父さんとお母さんが、変になっちゃったよ」

「見てはだめ、目を隠して」

 そう言って目を閉じさらに手で隠すように促した。親の変わりようほど子の心を痛めるものはなかった。

 羅彩女も必死になって人を払う。

「だからダメだって!」

「そんなことを言わず、お願いしますよ」

「ダメなもんはダメ!」

 桃の木剣を振るい、敢えて誰かの腰を軽く打って。追い払う。

「心を満たしたい。心を満たしたい!」

 そう、叫びながらあえいでのたうち回る者までいる。

 そんな人々の姿を見て、香澄の目が光った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ