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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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在海飄移

 志煥も誇らしかった。漁師たちへの称賛を惜しまなかった。漁師たちも大照れに照れて、

「いやあ、できることをしたまでですよ」

 と顔を赤くして、感謝を受け止める。

「先行きに不安はあるが、せめて一晩ゆるりと休もうではありませんか」

 志煥がそう呼び掛ければ、賛同の声が返ってくる。万一のことにに関しては、

「何かあれば僕たちが引き受けますから、ゆっくり休んでください」

 貴志がそう呼び掛ける。正直自分たちも休みたいが、周囲を安心させるためには、との判断だった。

 それが功を奏したが、雰囲気は落ち着いてきて、夜闇に怯えるような不快な緊張感はだいぶ和らいでいた。

「魚も食わせてもらったしな」

 源龍も羅彩女も嫌がることなく、頷いた。一同船室から出て、円座になって漁村の人々とひと時の安楽に身を寄せている。

 空には月と星々が浮かんでいる。

 幸いにしてこのところ天気は平穏で。皆で平穏な夜空に包まれて、少なくとも今夜一晩は落ち着いて過ごせそうな期待感があった。

 しかし手放しで落ち着く源龍ではない。それから子どもたちに目を向け、

「なんかあるんだろ? なあ」

 と言えば、世界樹の子どもとリオンは、「うん、まあね」と苦笑する。それから表情を引き締めて、

「いっそ今夜一晩で決着をつけるかい?」

 などと言う。皆の目が子どもたちに向けられる。

「こいつら……、まったく」

 今度は源龍が苦笑する。苦笑しつつも、覚悟を決めた。すると子どもらは、違うよ違うよ、と首を横に振る。

「夢には行かないよ。来てるよ」

「来てる、何がだ?」

「ほああー!」

 怪奇的な雄叫びが響き、それに伴い人々の悲鳴も聞こえる。源龍たちはすぐに立ち上がって身構えれば。

「狼野郎!」

 なんとあの人狼が船を飛び越え、こちらにやって来たではないか。

「曲者か!」

 志煥も身構えるが、文人寄りで武芸には疎い。貴志はかばうようにその前に立って背中ごしに、

「ここは僕らに任せて下さい」

 と言う。

「下がって、ここはあたしらに任せて!」

 羅彩女も人々を払いのけ、臨戦態勢をとる。人狼は他に何も連れていない。こちらが数的に有利だが。人狼は臆する様子もなく、単身で自ら敵中に飛び込んだ。

「言った通り何ともないだろう。さあ、再戦だ!」

「てめえッ!」

 源龍は平服で丸腰だ。

 しかしそれにしても、人狼は突然皆の前から飛び立ったと思えば、この飄移せざるを得ない船たちの中に紛れ込んでいたなど。

「源龍!」

 それは香澄の声だった。虎碧と龍玉も一緒だった。


在海飄移 終わり

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