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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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在海飄移

 羅彩女と龍玉は志煥を見やりながら、そんなことを考えた。

「そんなことはありません、私らはお役人さまに感謝しています!」

 漁村の人たちが数名、志煥の言葉を受けて跪いた。

「見張り台を作る予算を引っ張ってきてくれたおかげで、巍軍を早く見つけられて避難できて、こうして皆無事なんです」

「お役人さまがいなければ、今ごろ私らは巍軍に皆殺しにされています」

「……そうか、そう言ってくれるか。ありがとう」

 志煥は人々に感謝し返し、頭を下げた。もったいねえ、と人々はさらに恐縮する。絵に描いたような役人と村人の理想的な関係であった。

(こういう事例はほんとうに稀なことだな)

 貴志は心底感心する。

 船は進む。このまま港にゆき……。と、思っていたが。進むにつれて、船をよく見るようになる。港に近づいているということか。しかし。

「おーい。おーい」

 と、ある船の水夫がこちらに呼び掛け。何事かと思えば。

「港には船がいっぱいだ。戦を逃れてきた人たちでごった返していて、寄港させてもらえないぞ!」

 と言うではないか。

「そんなに!」

 こういう場合は羅彩女が前面に出て話をする。打ち合わせをしたわけではないが、それぞれの性分としてそんな役割分担になっていた。

 リオンは船を止める。

「教えてもらったことだが。おかに上がれたところで、いくさいくさで混乱してっから、どうしようもねえってさ!」

 親切な水夫は苦々しく言う。

「裏切者もいて、百姓しか知らねえ裏道を案内してるそうだ。まったく……」

「そうなの……」

 羅彩女は言葉もなく。それを聞いた貴志は、いくさに裏切りはつきものであるとはいえ、半島人としていたたまれない気持ちになった。

「弱い国に生まれるもんじゃねえよなあ!」

 どこからともなく、そんな声が聞こえた。寄港できず、海を漂うしかできない不安がそんなことを言わせたのだろう。

  寄港できないということは、食料や物資が補給できないということだ。このまま海に居続けては、やがて飢え死にだ。

 志煥も言葉もなく、思案にふけるしかなく。その周囲を漁村の人々が取り囲む。

「どうなってしまうのだろうか」

 心が不安に侵されて、身も震える。

 貴志も思案する。この船に乗せている食料や水は少人数分しかない。節約したとて、二日か三日しか持たない。

 倉庫のお宝はさすがに秘密にして、立ち入らせないようにしている。最初悪心を抱かずとも、それを目にした途端に出来心で悪心を抱いてしまうかもしれないからだが。

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