在海飄移
「これは」
「ああ、深く考えてはいけません。こういうものなのです」
「はあ」
不思議がる志煥を貴志はなだめる。
「なんなら飛ばせるけど?」
「混乱するかもしれないから、やめておこう」
「そうだね」
「?」
リオンと貴志の話を聞いて、変な会話をする者だと志煥は思った。それをよそに、人々は思い思いに空を見上げ、海の向こうを見つめる。船室にいた女や子どもたちも何人か外に出て。
羅彩女と龍玉が背伸びをしながら外に出て来た。
「あー。ずっと部屋ん中にいるのもだるいねえ」
「お天道様が恋しいよ」
などと言いながら陽の光を浴びながら背伸びをする。
「ところで、身分を証明するものは?」
「ああ、それなら」
志煥はふところから紙片を取り出した。そこには任命書だった。ただし木っ端役人宛てなので、王の印までは押されてない。地方を治める代官の印が押されて、李志煥に漁村への赴任を命じる旨が書かれている。
「しかし気がかりがあります」
「それは?」
「巍軍は白羅に入って各地を荒し、難民と化した人々が漢星になだれ込んで、それで混乱が起こっているのではないかと」
「……考えられることですね」
「もしかしたら、港で停泊させられたまま、漢星には行けぬかもしれませぬ」
「ありえますね」
そんな話をしているのとは別に、龍玉ははっとして、
「船を降りてお別れのはずが、まだ一緒だわ」
と、肩をすくめる仕草を羅彩女に見せる。
「それどころじゃなかったからねえ」
「どうにも巡り合わせが悪いねえ」
そんな話をしているのとは別に、香澄は船室に残り。瞑想をするように静かに座っている。虎碧も同じように、船室に残っている。それらと一緒に、内気な性分の子どもも船室に残って、二度寝をしている。
「香澄さん、あなたは目立ちませんが。何があっても眉ひとつ動かしませんね」
「私は薄情なところがあるからね」
「薄情どころか、私はあなたに怖いものを感じます」
その言葉に香澄は微笑んだ。虎碧もおとなしいようで、率直なことを言うものだった。
「私は、怖くないわ。……向こうから怖がるのよ」
「はあ」
無駄口はたたかないが、その奥底に、何かが見えそうで見えないのが、虎碧にとって怖さを感じさせた。
(あなたは人間ですか?)
ふと、そんなことを聞きたくなったが。さすがにやめた。
すると、源龍が部屋に入ってくる。子どもも一緒だ。
「おい、こいつらなんとかしてくれ!」
「まあ」
その姿を見て、香澄と虎碧はそろって声を出してしまった。