在海飄移
また跳躍し、公主の船に戻って、船尾の立て柱に縄をかけて、曳航できるようにする。
浜辺で役人風の男や漁村の人々は船を飛び交う貴志を見て、呆気に取られている。本当にあの船に乗せてくれるのかと。
「残っている小舟とかあるか?」
源龍が問えば続いて羅彩女が、
「あの船に乗って、安全なところに逃げよう。漢星まで行けば、なんとかなるんじゃないかい?」
と続ける。半島の言葉は多少話せるようになってはいるが、やはり不安があった。しかし通じたようだ。
漁村の民はにわかに顔をぱっと輝かせて、
「はい、まだ大丈夫な舟はあります」
「ようし、じゃあすぐに支度しな!」
姐さん風を吹かせて羅彩女は言い。漁村の人々は浜辺に置かれている小舟の中で大丈夫なのを見つけ。まず女や子どもを乗せて、二隻の船向けて漕ぎ出す。小舟には世界樹の子どもとリオンも乗り、香澄も護衛として乗っている。
「むう、唐突に」
役人風の男は呆気に取られてしまったが、それしかないようだと観念する。
互いの名乗りもしそびれたままなのに、変な流れになったものだった。
「自己紹介が遅れました。僕は李貴志と申します」
「や、これはご丁寧に。私は木っ端役人ながら……。李志煥と申します」
「同姓なんですね」
貴志は親しみを覚えて微笑む。その間に小舟に女と子どもが乗って沖の船向かい漕ぎ出す。
羅彩女や龍玉が率先して、整列させて、
「慌てない慌てない。敵が来ても追い払ってやるからね」
と言って、人々を落ち着かせる。
人数をかぞえれば四十七名。二艘の船に分けて乗ることはできる。
役人風の男、志煥は感心するようにその様子を眺める。源龍は問う。
「あんたはどうするんだ? 役人だろう?」
「それがしも、着いて行かせてもらいましょう。役人としてこの人たちを見守る義務がある」
それを聞いて、源龍は思わず笑みを浮かべた。好意的な笑みだった。
(そんな笑顔ができるんだ)
羅彩女は思わず源龍の笑みに見惚れた。
「そこ、ぼおっとしない!」
龍玉の一喝。羅彩女はむっとしつつも、そわそわする漁村の人々を整列させ、落ち着かせた。
小舟は沖合の船に着き、香澄と漁夫以外移り乗って、浜辺に帰ってくる。それに羅彩女と龍玉立会いのもと、乗れるだけ乗る。
「あなたも来て」
香澄は心ここにあらずな虎碧に言う。虎碧は夢にも思わぬ展開に、龍玉のそばにいながら、ぼうっとしっぱなしだった。
「私ひとりじゃ心もとないから」
「……わかったわ」