在海飄移
「女王さまをお探しですか!」
光善女王が行方不明になったことは、最初秘密にされていたが、今は公にされている。誰でもいいから見つけてくれと、事の次第を明かし、見つけた者には恩賞を与える触れが出されているのだ。
「おいたわしや」
光善女王のことを思い出すや、役人風の男は涙を流した。年のころは五十路ほどだろうか、真面目そうだがどこか苦労人の影も見えそうだ。
しかしそれどころではないと、すぐに気を引き締めなおした。
「申し訳ありませぬが、わかりませぬ。それに今はそれどころではなく……」
男は忸怩たる気持ちをにじませて言った。龍玉に対しても敬語を使ったところ、貴志を貴人と、他の面々をそれに連なる人々と思っているようだ。
「あ、また船だ!」
漁村の民の誰かが言い、それから口々に船だ船だと言う。見てみれば確かにもう一隻、船が少し遠くに見える。
「あれは……」
目を凝らしてみれば、あの張大尽、もとい人狼の船ではないか。置いてきたのが、流されてここまで来たというのか。
「この船に乗って逃げることができれば」
と誰かが言えば、貴志はぴんと閃いて。
「できます!」
と言った。
「あの船は無人で漂流しているんです。それに乗って、まだ巍軍の及ばぬところまでゆくのもいいかもしれません」
言うやひとっ飛びして船に戻り、リオンに問う。
「あの船なんとかならないかな?」
「なるよ。僕が動かせるのはこの青藍公主の船だけだけど、あの船に近づけて縄をかけて曳航できるよ」
「……、焦って唐突な物言いしちゃったけど、察してくれてるんだねえ」
「まあ、浜辺の様子を見ればね。僕らも何とかならないかとは思ってたけど」
「でも」
世界樹の子どもが口を挟む、
「何かの試練がまたあるかもしれないよ。僕らは試練の宿命がある、漁村の人たちを宿命に巻き込むかもしれない」
「それもそうだけど、あのまま漁村にいても……」
家を焼かれ田畑を荒され、漁のための舟も壊され、生活は成り立たなくなっているようだ。不幸中の幸いで人口は少なく、二艘で全員乗せることはできそうではあるが。
「でも放っておけないよ。この人たちもどの道試練に襲われる」
「……。そうだね、皆で協力して、なんとかしてみよう。リオンもそれでいいかい?」
「いいよ」
笑顔で答えて、リオンはむにゃむにゃ念じて、船を近づけ。その間に倉庫から縄を引っ張り出して。程よく近づいたところで跳躍して乗り移って、船首にある係留のための立て柱に縄を掛ける。