在海飄移
漁村はざわつく。船で子どもたちと一緒に残る龍玉と虎碧はすごいと息を呑む。武芸のたしなみがあるとはいえ、あそこまでの跳躍はできない。と思っていたら、
「あなたたちも飛べるよ」
と、リオンが言う。
「え?」
「世界樹の導きによって巡り会えたあなたたちにも、力は授けられているよ」
虎碧は碧い目を見開いて驚きを隠せない。この子は何を言っているのだろうと。
「あたしらもあんなに飛べるっての?」
「そうだよ」
「……」
龍玉は子どもたちを見据えて。
「海に落ちたらお仕置きだよ!」
と言いながら船床を蹴り跳躍すれば、さっきと同じように眼下の海を飛び越え、浜辺に着地する。着地時少々よろけ砂を散らしたが。
「すごい、ほんとに飛べた」
本人が一番驚いていた。それを見て、虎碧も跳躍し、浜辺に、香澄のように、羽毛を思わせる砂を散らかさない軽やかな着地を見せた。
「……」
龍玉はその身のこなしに息を呑んだ。香澄は虎碧に微笑みを向けた。
「あ、あなたたちは、何者ですか?」
朝星半島の言葉で男が語りかける。その身なりから役人のようだ。貴志は前に進み出て、ゆきずりの者だと答えた。まさか未来から来たなどと、口が裂けても言えるわけもない。
「ゆきずりのお方にしては、常人離れしたところがありますが」
「それは……、特殊な訓練で身に着けたもので」
などと、苦し紛れの言い訳をしてしまう。この役人風の男は、多少肝も座っているようで、貴志らを見る目も鋭い。しかしそれよりも。
「この漁村は荒れていますが、なにがあったのですか?」
見える家屋は倒壊し、火もつけられて柱も黒焦げで黒煙を立ち昇らせている。
漁村の人々は恐れる目で、遠巻きにしてこちらを見ている。
「巍軍に攻められました。発見も早く、漁村の民は皆避難し、幸い死者はありませんでしたが。この通りの有様で」
「それはひどい」
貴志は憤りを込めた口調で答える。
(戦争なんて、恨みと焼け野原しか残さない)
つくづくそう思った。
(待て。どうして私は敬語で接するのだ)
役人風の男は貴志の身から醸し出される雰囲気に、つい敬語を使ってしまった自分に驚く。
(やっぱり宰相の息子さんだねえ。あ、王族でもあったんだっけ?)
その様子を見て、羅彩女は改めて感心する。
しかし貴志は奢らず、それ以前に自分から醸し出されるものに気付く様子もない。
「あ、そうそう、光善女王さまを探してるんだけど、何か知らない?」
と言うのは龍玉だ。白羅に来て捜索を請け負うくらいだから、半島の言葉は話せた。