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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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在海飄移

 黒煙もはっきりと見えてくる。ということは、陸地からも遠くて小さいながらこの船が見えているかもしれない。

「ゆけ、戦え、救え。世界樹はそう言ったね」

 貴志が言えば、子どもたちは頷く。

「私たちには、ゆくべきところ、なすべきことがあるわ」

 香澄が前面に出るように言う。それまで控え目にしていたのに。

 何かを知っているのか悟っているのか。この少女もこの少女で、何者なのか。謎多き少女だった。

「逃げられねえってわけか」

 源龍が意を決したように言えば、羅彩女も、

「あのお宝に手を付けられないなら、戦で手柄を立てて恩賞をもらおうかね」

 などと言う。

 貴志はその諧謔かいぎゃくに微笑んだが、緊張感がなくなったわけではない。時が経ち、陸地の様子が見えるようになってきた。港のない浜辺の漁村のようだった。

「ちょっと待って。このまま行けば座礁するよ」

「大丈夫大丈夫」

 貴志の危惧にリオンがこたえれば、船はぴたりと止まる。浜辺でもこっちに気付いて、指を差し船だと言っているのが聞こえる。

「この船に小舟があったよね」

 船のともには万一の時の脱出や、今のように港でない浜辺の海で下りるときに用いられる小舟が置かれていたが。

「飛べるよ」

 と、世界樹の子どもが言う。

「世界樹が力を授けてるんだよ。色々させる代わりにね」

「なんだって?」

 船から浜辺までは遠い。人間の跳力で飛べるものではないが、世界樹の子どもはできると言う。

「試しに源龍さんが飛んでみなよ」

「……、ようし」

 源龍は身構え跳躍をしようとすれば、隣に香澄が並んで。一緒に跳躍をすれば、背中に翼でも生えたかのように高く、遠く向こうに見えた浜辺まで一気に飛べた。

 砂浜の砂を散らせながら着地すれば、香澄はふわりと、まるで羽毛のように軽やかに着地し砂も跳ねない。

(とんでもねえ娘だ)

 自分がかなわず仕留められたのも、思わず納得する。しかし確かに人並み外れた跳躍はできた。

 貴志も、それならと跳躍すれば、同じように浜辺まで飛べて。羅彩女も飛んで。着地するやすぐさま源龍のそばまで駆け寄って、香澄を鋭い目で睨んだ。

 源龍はやや戸惑っているようで、香澄は笑顔で視線を受け流す。

(羅彩女さん、源龍に気があるのか?)

 こんな時にと思いつつ、羅彩女は源龍のそばにいたがるのは、やはりあれか、好きなのか、と思ったが。その気性ゆえに素直に告白もできず、源龍は気付いているのかいないのか、微妙に一定の距離を保っている。

 しかし今はのんびりできない。

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