在海飄移
「なんとかならないのか?」
「ちょっと、危ないから、逃げるね!」
リオンはむにゃむにゃと例の、何かを唱える仕草をすると、船は波を蹴って進み。沖へ沖へと進んでゆく。近くに軍艦もいるかもしれない。それに発見されないためには、沖へ出るしかない。
「……」
貴志とて、無暗に突っ込んだところで勝てないのはわかっている。それに、
(歴史に介入をして、いいんだろうか?)
自分たちは過去に飛ばされているわけだが、何かでしゃしゃり出ることは、歴史に介入して、何かの歪みを生じさせてしまうのでは、という危惧もあり。
どうにもならない複雑な心境を抱えざるを得なかった。
「で、でもさ、光善女王が翼虎になって巍軍を追い返してくれるんだろ? ならいいんじゃないかい?」
貴志を気遣い羅彩女が声をかける。
「そうですね」
言われてみればそうだ。自分たちが何もしなくても、白羅は助かる。無暗に突っ込んで歴史に介入してしまう危険を冒す必要はない。とはいえ……。
「相変わらずあんたらの話はわかんないんだけど……。……このまま船ってわけにもいかないんじゃないの?」
龍玉が言う。そしてその通りだ。数日分の水と食料はあるものの、このまま海にいるままでいられるわけもない。
「安全なところに行くってことはできないの?」
香澄が気を利かせてリオンにたずねるが。うーんと考え込む仕草をして。
「とりあえず、東に行ってみよう。大丈夫なところがあるかもしれない」
こうして船は、半島の沿岸部の沖合を東に進む。太陽の位置から察するに、半島は東に伸び、陸地は北側に見える、ということは南側の沿岸部にいるということだ。
しかし海流の流れか、リオンの意に反して船は陸へと進む。
「世界樹は僕らを白羅に行かせたいみたいだね」
世界樹の子どもが悟った風に言う。リオンも観念して頷く。
「歴史に介入することになるんじゃないかな? いいのかな?」
得体の知れない恐れを貴志は禁じ得ない。
「歴史が歪んで、オレの親父とお袋が会うことがなくなるってのも、あるかもしれねえな」
「それ、それもあるね!」
貴志もそれは危惧していた。源龍も鋭いことに気付くと感心したが。
「でもいいじゃねえか」
などというから、貴志はおおいに戸惑い、その言葉に、声を詰まらせて言葉を失う。思わず羅彩女は源龍に同意する。
「碌な人生じゃなかったからねえ。生まれてこなければよかったと、何度思ったか。あたしゃ貧乏にあえいだ挙句に、首をつって自殺だもん」
しみじみと羅彩女がつぶやく。