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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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在海飄移

「じゃあなんなんだよ」

「なんか気になるんだよ、この巡り合わせに」

「結局そうじゃねえか」

「いやだから、それとこれとは別のことなんだって」

「どう違うんだよ」

「上手く言えないけど、世界樹がやることだろう。このままお別れになりそうになくて」

「ふん、言ってろ」

 源龍は呆れたとため息をつき、貴志から離れ鎧を脱ぎ捨て、ごろんと横になった。貴志がその生い立ちに似合わぬ感情を抱いて言い訳をしていると源龍は受け止めた。

(だから違うんだけどなあ)

 言ってもわかってもらえぬかと観念して、貴志もごろんと寝ころびふて寝を決め込むことにした。しかし女性をついつい見てしまうのはよくないかと思い、今後気を付けようと思った。

 羅彩女たちは、互いに目配せして、苦笑し。それから、緊張感がどっと抜けて、気も抜けて、気が付けば雑魚寝で寝てしまっていた。

(このまま元に戻れたら)

 ふと、羅彩女はそんなことを考えた。寝ていて覚めたらこの時代にいたのである。

 あの夢の中で、世界樹の木陰で、

「ゆけ、戦え、救え」

 という声を聴いた。ゆけ、はわかった。しかし、何と戦い、何を救うのか。翼虎伝説のことを考えれば、自分たちの出る幕はなさそうだが。

(尼さん女王が自分で生け贄になって翼虎にならなくても、いくさに勝てるようお手伝いをするのが、あたしらの役目とか?)

 ふと、そんなことを思いついたが。

「面倒くさいねえ」

 ぽろっとこぼし。はっとして、他の反応をうかがうが。幸い寝ていて聞こえないのか、聞こえても聞き流してくれたようだ。

 やがて完全に寝入って、眠りの闇の中に落ちていた。

 目が覚めれば、船がゆりかごのように揺れている。なぜが皆同じ時に目が覚めて、起きて外に出てみれば。船は海に浮かんでいる。

「……!」

 遠くに陸地が見えるが、上陸しようとは誰も言わなかった。なぜなら、煙が上がっていたから。

 それは生活の煙ではない。やけに黒く、渦を巻くかのように太く、黒龍のように高く高く昇ってゆく様は禍々しさすら感じさせた。

「いくさだ!」

 一同の目が一気に鋭くなる。

「巍が白羅に攻め込んできたんだ!」

 龍玉が忌々しく吐き捨てるように言う。虎碧は黒煙を見て息を呑む。

「これじゃあ上陸できないね」

 世界樹の子どもが静かに言う。リオンも頷く。船に丁度良いところで着水するようにと念じていたが、戦を察して陸地から遠めのところで着水したようだ。

 貴志は拳を握りしめる。

 この立ち上る黒煙の下で、多くの命が失われてゆくと思うと。いてもたってもいられなかった。

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