在海飄移
「あの、李貴志さんと言いましたっけ? それもあなたの、九百年後の世界で学んだことなんですか?」
虎碧は貴志をまじまじと見やり、鋭い視線で問う。
碧い目に見つめられて、貴志は不思議なものを覚えつつも、うんと頷く。
(この人の碧い目は。異民族の血が混じっているのか。親御さんはどこでどう出会ったのだろうか)
ふと、そんなことに興味を覚えた。同時に、
(このふたりは、どのように出会ったのだろうか)
会話は大陸部の言葉で、である。ふたりは大陸部の巍の人間のようだが、故あって根無し草のように江湖を彷徨し、白羅まで流れたのか。
「って言うか、あんたたち、人間で害意はないんだね」
「はい」
「なら、あたしらを解放してよ」
「……そうですね」
成り行きで一緒になったものの、無理に一緒にいつづけなければならないというわけでもない。
羅彩女も頷く。
(金銀財宝がいらないなら、おさらばしてもらいましょうかね)
成り行きとはいえ一緒になった以上、金銀財宝の分け前も与えねばなるまいか、そうなると取り分が減ると思っていたが。
「お宝も怪しげなものみたいだし、いらないよ」
と言うのを聞き、羅彩女はますます笑顔をほころばせ。リオンにその笑顔を向け、
「どこかで降りて、この子たちを下ろしてやろうよ」
と言う。その笑顔の内実が子どものリオンと世界樹の子どもでもわかるほどに、羅彩女はにこにこしている。
源龍は黙ったまま。香澄は微笑みを浮かべたまま。何も言わない。
「わかったよ。じゃあ」
リオンは手を合わせ、むにゃむにゃなにやら唱えると、船が揺れた。動き出したのだ。
「白羅で下ろした方がいいかな?」
「そうだね、頼まれた仕事は最後までやらないとね」
仕事とは光善女王の捜索のことだ。怪しげなお宝よりも、それによる収入の方が当てになる、と思うのも当然のことだろう。
「……」
貴志はちらちらと、ふたりに目をやる。
「おい」
源龍が突然貴志の腕を掴んで、別室へと引っ張ってゆく。うわ、と不意を突かれた貴志は引き摺られるように連れてゆかれる。他の面々はぽかんとして、ふたりを見送る。
「なに女をじろじろ見てるんだよ。みっともねえ」
別室に入るや、源龍の説教だ。江湖を渡り歩く剣客で戦場を駆け巡る傭兵で荒くれ者ながら、その点に関しては結構堅い。
「え、いや、別にそんなんじゃ」
「あの碧い目の娘が気になるみてえだな。やめとけ、違う時代なんだろう」
「いやいや、そんな感情はないよ」