悪夢戦闘
源龍は背の高い刑天の大斧で上から抑えられる形で、打龍鞭で受けて、踏ん張っているが。それもいつまでも続くものではない。
(そんなこたあ、百も承知よ!)
ふっ、と不意に力を抜いて。源龍は少ししゃがみ込みながら、刑天の右の脇向かい駆けた。
不意のことで、刑天は体勢を崩し。前によろける。その隙を突き、右の脇腹に打龍鞭の強烈な一撃が食らわされる。
少し効いたか、刑天はよろける。
「今だ!」
貴志は再び石を拾い、崖を駆け上がり。跳躍して、首の切れ目、その真ん中から除く白い骨目掛けて石を投げつけた。
石は見事に首の切れ目の真ん中の、骨の部分に当たった。
「ぐわあああーーー!」
刑天はこれ以上にないというほどの、苦悶の悲鳴を上げて。それは谷底全体に轟き、源龍と貴志の鼓膜を不快に揺らす。
やはりその部分が弱点だったようだ。
耳をふさぎたい衝動を堪えて、源龍は大斧を持つ手めがけ打龍鞭を振り下ろし。鈍い感触を感じて、打龍鞭が当たり、効いたことを確信した。
着地した貴志はそれを見て、大斧を落とすだろうからと、いつでも奪取できるように身構えた。
しかし、
「ぎええあああーーー!!」
刑天は鼓膜を不快に揺らす悲鳴を上げこそすれ、大斧はしっかり握ったまま落とさなかった。
「なんて野郎だ!」
小手を打ったあとに飛びすさった源龍だったが、刑天向けて再び迫って。打龍鞭を今度は横振りに振って、みぞおちの鼻柱にぶち当てた。
鈍い感触がし、鼻柱は確かに曲がり。それにともない、鼻血まで噴き出す。
だが、苦悶すれども大斧は落とさない。
「ああ、もうたまらないよ」
刑天の悲鳴のあまりの不快さに貴志はたまらず耳をふさいだ。
「こいつは、悲鳴まで武器になるのか」
源龍も飛びすさってたまらず打龍鞭を地面において耳をふさいだ。
まさに人ならぬ魔物、まさか悲鳴にここまで手こずるとは。
「香澄に餓鬼どもめ、ろくなもんじゃねえ」
源龍は悪態をつかずにはいられなかった。
人生の成り行きで香澄と遭遇し、そこからおかしなことになってしまった。
あのまま死ねたら、今頃は天国か地獄でゆっくりしているはずなのに。どうしてこうなった?
「手が使えないなら、足だ!」
貴志は手で耳をふさいだままで、手ごろな石を見つけると蹴り上げて宙に浮かせて、それを思いっきり蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた石は刑天めがけて飛んで、狙い通り曲がった鼻柱に当たった。これがとどめになったのか、鼻柱は完全に折れ曲がって。鼻の真ん中は見事にへこんでしまった。